20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第215回   拾「命、その重さと軽さと」の一
 大田原溢美(おおたわら いつみ)のポジションは、帝星建設社長・野蔵修司(のくら しゅうし)の「愛人」ということになる。だが、溢美は、修司の家庭を壊してまで、その位置にしがみつこうとは思っていない。それどころか、目的さえ果たせれば、とっとと、こんな位置から、おサラバしたい、とさえ、考えている。
 もともとは、メイクアップアーティストが夢だった。その夢を叶えるため、専門学校に通い、テナントの一角でもいから自分の店を持ちたくて、資金のために夜の勤めも始めた。
 修司と出会ったのは、そんな時だ。「君の夢を応援してあげる」と言われ、「愛人契約」に応じたが、そのような気配などなく、それどころか昨年には「ニュータウン構想」頓挫、殺人事件に続けて横領事件まで起きて、帝星建設はガタガタになった。
 よく持ちこたえていると思う。噂だが、負債を子会社に押しつけたらしい。顧問弁護士が話しているのを耳にしたが、基本的に「詐欺罪」、さらに場合によっては「強要罪」とかいうのが成立してしまうらしい。
 そんな時、修司からある男の監視を頼まれた。正直、修司のことも社のこともどうでもよくなっていたのだが、ここで社がこけたら、今の生活を捨てることになる。なので引き受けた。
 男の名前は富士岡朝円(ふじおか ともかず)。資金管理一課、資金管理係だ。詳細はよくわからないが、横領事件の真の告発者は、この男らしい。告発者である、人事部の桑原俊行部長は、富士岡の相談を受けて動いた、ということのようだ。
 まあ、桑原部長も、「旨み」があったのは、確かだ。「更迭・あるいはなんらかの重大な処分がされることのないよう、社長に取りはからう」みたいなことを言って、事業管理部長・小金井の持っていた人脈を、接収したらしい。横領犯は小金井部長の婿養子だったから、小金井部長には選択の余地はなかったのだろう。
 そして、富士岡も、その「功績」が認められ、管理主任代行に抜擢された。だが、石毛建設社長の自殺、取引のあった合崎電業の連鎖倒産があった辺りから、様子がおかしくなったという。この四月に管理主任就任、という、ある意味で大出世を遂げたときから、明らかに不審な動きを見せるようになったそうだ。なにをやったのかは、話を聞いたときは知らなかったが、まるで「告発したことを後悔している」かのように、修司には思えたらしい。そこで、県議会議員の土原満武(つちはら みつたけ)との連絡役に使った。あとで聞いたが、「罪の共有」をさせて動きを封じようと考えたそうだ。
 そして、念のため、この四月後半から「特別人事」と称し、総務部広報課だった溢美を、事業管理部資金管理一課・管理主任付事務補佐という「役職」を強引に設定し、富士岡の監視役につけた。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 2657