帝都文明亭を出て、三つ目のバスの停留所が、鞍橋材木店の最寄り駅だ。 僕、浅黄さん、梓川さん、そして休憩をもらった紫雲英ちゃんの四人で、例の教会へとやってきた。 いくつか民家が並んでいる通りを抜けると、幅十メートル程度の川があり、橋を渡って、十五軒ほど民家が並んだ、緩やかにカーブしている通りを過ぎると、幅五メートルほどの道があり、広場がある。前は、ここは更地だったはずだけど、今は、ちょっとした公民館ほどありそうな建物が建っている。 様子を見ていると、そこから、二人の人物が出てきた。一人は沢子さん、もう一人は、合崎だ。 僕たちは、民家の影に隠れて、様子を窺った。 「ねえ、沢子さん。協力してくれないか?」 柔らかな笑顔で、合崎が言うと、沢子さんは明らかに困った表情を浮かべる。 「でも、そんなお金……」 「大丈夫さ。無尽(むじん)にお金を出すより、よほど利回りはいいし、化神教への功徳にもなる。何倍にもして返してあげるから」 ふと、僕は小声で呟いた。 「むじん?」 それに小声で応えたのは、浅黄さんだ。 「厳密には違うが、仲間内による、クラウドファンディングみたいなものだ」 「へえ」 合崎は沢子さんの両肩に手をかけて言った。 「どうだろう、知り合いのカフェに女給(じょきゅう)の口を利いてあげようか?」 沢子さんは、なんだか、ためらっている。 「カフェってことは、喫茶店みたいなものですよね? そんなに給料がいいとは思えないけど?」 僕がそう言うと、今度は梓川さんが答えた。 「この時代のカフェって、喫茶店っていうより、風俗店だったの」 「そうなんですか!?」 「そうなんスか!?」 僕と紫雲英ちゃんが同時に驚いた。で、思わず声が大きくなったんで、僕たちは口を覆ったけど、遅かった。 二人がこっちに気がついた。 「心さん!?」 沢子さんが、ちょっとだけ驚いたように声を上げた。まるで「見られちゃいけないところを見られた」ような感じだ。 でも、合崎のほうが、もっと驚いている。そして。 合崎と、僕たちとの間の空気に、静電気のようなものが充満した。 「決まりだな」 と、浅黄さんが言った。そのあとを梓川さんが続ける。 「現実世界と変わらぬ『意識』をこちらでも保てるっていうのは、余程の術者か、それとも」 と、梓川さんが、懐(ふところ)から、一枚の御札を出す。 どんな仕掛けか、御札の文字が発光して、その周囲に放電みたいなものが起きていた。 それを見て、浅黄さんが言った。 「ディザイアか」 浅黄さんも、上着の内ポケットから、御札を出す。同じように文字が発光して、放電が起きていた。 ふと、なんかの気配に気づき、僕は懐に手を入れる。中には、一枚の御札があって、文字が光って放電していた。
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