「救世さん、お話、聞いてもらっていいですか?」 闘いが終わり、結界も解除されたとき、天夢ちゃんが言った。 「二人きりで、その……」 ちら、と、紫雲英ちゃんたちを見る。二人は、何かお喋りしていた。天夢ちゃんが二人の目を盗むようにして、僕の着物の裾を引っ張る。 頷き、僕たちは、そこから離れた。
行った先は、裏通り。この先に、大通りへ通じる道がある。 僕たちは、ある民家と民家の間にある、路地に立っていた。 「ゆーるちゃん……松江さんから、聞いたかも知れませんけど、あたし、兄がいたんです。その兄のことを、あたしは、異性としてみていました」 「うん、聞いてる」 「これは、学校の先生とか、限られた人たちしか知りません。……あたしと、兄、冬樹(ふゆき)は、血が繋がってません。祖父に、『兄・冬樹に神職を継がせ、その補佐となる巫女の「妹」を、他家から迎え入れよ』という神託が下ったんです。普通ならそんな託宣、一笑に付されるところでしょうが、祖父は、かつて帝浄連のメンバーとして活動していましたから、親族の一部の中では、それを信じる土壌が出来ていました。そこで、親戚筋の中から、夫を亡くしてあたしを抱え、生活に困っていた、実の母からあたしを引き取ったそうなんです。あたしが、三歳か四歳ぐらいの頃のことです」 「そうだったんだ……」 なんか、あまりにも大きくて、複雑で、僕なんかが聞いちゃいけないような気がしたけど、天夢ちゃんと約束したんだ、話を聞くって。 だから、どんなに重くても、僕はそれを聞かなきゃならない。 「あたしは、兄の補佐としての勤めを果たせるよう、小学校に上がる前からいろいろと修行してきました。もちろん、兄も一緒です。両親が共働きで、仕事の関係で家を空けることも多かったから、兄と過ごす時間は、両親よりも多いぐらいでした。そんな中で、あたしが兄に抱く想いは、兄妹としてのもの以上になっていきました……」 しかし、お兄さんは、その想いには応えてくれなかったという。お兄さんも、天夢ちゃんのことを「妹」としてだけに、見ていたわけじゃなかったらしいそうだけど、何か「心に決めた戒め」でもあったらしく、決して天夢ちゃんを「異性」として扱おうとしなかったそうだ。 「あたしが通う鼎?女学院って、中高一貫校なんです。敷地こそ別々ですけど、道路を挟んで三百メートルぐらいしか離れてないし、一部の部活は中等部と高等部で合同になってて、一緒に活動するんです。あたしが中学の頃、剣道部と掛け持ちしていた工芸部って、そんな部活なんです」 「工芸部?」 「はい。手芸部じゃなくて、工芸部。木工とか簡単な彫金なんかでアクセサリーとかオブジェとか、作るんです。全国的にもレベルが高くて、何年か前の卒業生に、プロになった人もいるんですよ」 「すごいんだね」 剣道もそうだけど、鼎?女学院って、すごい女子校なのかも知れない。
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