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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第207回   玖の十七
 みるみるうちに、地上が遠ざかる。翻弄されるがままに、そして、訳がわからぬまま、僕は宙を舞う。何を、どうこう、なんて余裕はない。
 その時、何かが飛んできた。それが、宙にある、僕の右の掌にぶつかる。反射的に握ると、金の勾玉だ、っていうのがわかった。
 そして「銀の勾玉」が、飛んでくるのが、感覚的にわかる。僕は飛んできた「それ」を左手で掴む。
 空中で、翻弄されながらも、僕は金色の光を放つ右の拳と、銀色の光を放つ左の拳を、胸の前で打ち合わせ、「咒」を唱えた。
「真鎧纏装(しんがいてんそう)!!」
 僕の中に氣と光と力が満ちる。
「ヨロイ」をまとった僕は、空中で身をひねり、バランスを取りながら、着地した。でも、完全には勢いを殺せず、着地して七、八メートルは、後ずさりの体勢で、地上を滑ったと思う。
 制動をかけて止まり、僕は前を見る。はるか先に、異様な気配が立ち上っているのがわかる。僕はそこへ向けて、走った。人混みを避けながら、目的の場所に着く。人々が無意識に避けて通る一角がある。多分あそこが「結界への入り口」なんだろう。
 ここを壊すと、辺りに悪い影響が出る。僕は懐に手を入れる。この中に、結界を壊さずに中に入る、そんなことが出来るアイテムがあるような気がしたんだ。
 出してみると、直径三センチぐらいのクリスタルの円盤。直感的に貴織さんの使ってるカードと同じ物だってわかった。
 この場で有効な力をイメージすると、円盤に一つの「絵」が浮かぶ。それは、車輪の様に見えた。僕はそれを左手甲のサークルにはめ込み、キーワードを唱えた。
「WHEEL OF FORTUNE!」
 左手に「回転」の力が生まれる。そして左手で「そこ」に触れる。空気中にもかかわらず、「壁」を感じた。イメージを浮かべ、その部分だけ、緩める。結界が一部、解除される。短い時間だろうけど、僕が中に入る時間だけあればいい。
 僕は「入り口」から、中に飛び込んだ。
 そして、二、三十メートル先で、愛染明王と闘っている天夢ちゃんを見た。
「心さん!」
 近くで紫雲英ちゃんの声がした。そっちを見ると、十メートルぐらい先に、紫雲英ちゃんと貴織さんがいる。待避しているってところだろう。そうか、アタッキングメンバーの場合、結界を張ったときに「範囲内」にいたら、一緒に閉じ込められちゃうのか。これは、「改良」しないとまずいかも?
 僕は頷き、ダッシュした。途中で左手のクリスタルを抜く。
「お待たせ、天夢ちゃん!」
「救世さん!」
 天夢ちゃんが笑顔で僕を見る。
 愛染明王は、ある程度、ダメージが蓄積しているらしく、左の足を引きずるようにしている。天夢ちゃんが、柄からクリスタルの咒符を抜き、咒を唱えた。
「解不仲(かいふちゅう)符!」
 クリスタルの札に、光る線でなんかの文字とか、マークが浮かぶ。天夢ちゃんはそれを天地、逆にして、柄に挿し込んだ。
「咒符の中には、天地をひっくり返すと、逆の意味になるものもあるんです」
 そう言って剣を構える。剣身が赤い光を放った。ダッシュをかけ、天夢ちゃんが斬り込んだ。狙うのは、引きずっていない方の脚だ。刃が食い込んだ瞬間、愛染明王が左の手に持った弓で、天夢ちゃんを殴る。その衝撃で天夢ちゃんが、悲鳴とともに十数メートル、飛ばされる。
「天夢ちゃん!!」
 思わず、声を上げたとき、愛染明王が弓を構え、その弦を引く。太い光の棒が現れ、何十本もの光の矢になって、天夢ちゃんに向かう。
 そして、天夢ちゃんが倒れているところに、まさに集中砲火の如く、襲いかかった!
 爆音が轟き、白煙が立ちこめた。
 助けに行こうとしたとき。
「救世くん! 先にディザイアを!」
 貴織さんと紫雲英ちゃんが、白煙の方へ、駆け寄るのが見えた。
 そうだ、天夢ちゃんは二人に任せよう。それに、「ヨロイ」の防護力も信じたい。僕は、新たな矢をつがえている愛染明王を見た。その時、僕の頭の中に、やつを倒す「カード」が浮かんだ。
 円盤に意識を集中する。浮かび上がったのは、大鎌を手にしたガイコツ。
「DEATH!」
 キーワードを唱えてカードを有効にし、左手甲にはめる。そして、勾玉を出し、意識を合わせた。
 浮かび上がったのは、二人の男女。でも、天地が逆だ。
「REVERSE・LOVERS!」
 有効になった勾玉を、右手甲にセットすると、まさに矢を放とうとしていた愛染明王がこちらを向く。どうやら、僕から噴き上がる「氣」の意味に気づいたらしい。
 僕はステップを踏み、数歩、周囲を駆けて距離を稼いだ。そして、適当なところで、僕は跳躍し、ヤツの胸めがけて、跳び蹴りを食らわせた。
 声もなくよろけ、明王の体が崩れる。でも、まだ消滅まではしていない。あと、もう一発必要か、と思ったとき。
「縁切り符!!」
 天夢ちゃんの声がしたと思ったら、白煙の中から、どんな情熱も冷えそうなほど、冷たく青い光を放つ剣を構えた天夢ちゃんが飛び出してきた。明王のはるか上空まで上がり、気合いとともに、天夢ちゃんが剣を撃ち下ろす!
 その一撃でディザイアは脳天から縦一文字に割れ、爆発するように消滅した。


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