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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第203回   玖の十三
「あたしたちも、行きたいな、それ」
 帝都文明亭に行くと。天夢ちゃん、紫雲英ちゃん、貴織さんがいて、僕がチラシを見せて、伊佐木から聞いた話をすると、貴織さんがそんなことを言った。
「もしかして、『恋を叶える矢』が、欲しい、とか?」
 僕の言葉には、紫雲英ちゃんが笑顔で答えた。
「当たり前じゃないッスか、心さん! 恋が叶う矢があったら、世の中の悩みの、半分は消し飛ぶッスよ!」
「そういうもんなの?」
 と、僕は、天夢ちゃんを見た。
「え? ……ええ、そうですね」
 天夢ちゃんの表情は微妙だ。
 貴織さんが、苦笑を浮かべて言った。
「多分、イカサマだから、あたしが化けの皮を剥いでやるわ」
「ええーっ? そうなンスか?」
 紫雲英ちゃんが落胆したような顔をする。貴織さん、占い師だからね、こういう話には、詳しいのかも知れない。
 それじゃあ。
 ディザイアじゃなかったのか。

 場所は、糀町(こうじまち)にある「嶋來未記念講堂」。……千宝寺さんがこっちで住んでるアパートメントが、糀町にあるから何度かこの辺りには来たことがあるけど。
 こんなもの、見たことも聞いたこともない。それは、貴織さんたちも同じ。
「これは、救世くんが言った『ディザイアかも』っていう推測、当たってるかもね」
 厳しい表情を浮かべて、貴織さんが呟くと、緊張した面持ちで天夢ちゃんたちも頷いた。
 そして、中に入る。中の広さは、僕が住む玄峰の近く、伊風にある、小学校の体育館の半分ぐらい、だろうか。板張りで、土間のところに、一応、下足箱が用意してあるけど、それに収まりきらない靴や下駄、草履なんかが、むしろの上に、並べて置かれてる。これ、帰るとき、どれが自分のか、わかるのかな? 何人かは、自分の脱いだ草履を、風呂敷に包んで、手に持ったのが見えた。
 僕たちが行ったときは、かなり人が入っていて(若い女性ばかりだった)、結構、後ろの方に座らざるを得なかった。伊佐木の姿を探したけど、見つけられなかった。
 遠いからよくわからないけど、壇上に巫女さんが着る服のようなもの(赤い色をしてるけど、なんか、微妙にデザインが違う。上着、なぜかボタンがついてて、しかもダブルだし)を着た若い女性がいて、この人が「愛染明王ヤマチョウ様」らしい。その人が、よく徹る声で「世の営みは人の営み、人の営みは、男女の営み、それは、詰まるところ、男と女の睦み合い」なんてことを言ってる。
 そして、「お力示し」を始めた。「力を見せないと、誰も信じないから」だそうだ。伊佐木の言った通り、「ヤマチョウ様」は目隠しをして、こっちに背を向けてる。その中で、お弟子さんだという、年かさの女性がお客さんから物を受け取り、「これはなんですか?」とか、「私が今持っているものはなんですか?」とか、聞き、「ヤマチョウ様」がことごとく当てていた。


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