「お弟子さんがな、お客さんから物……例えば巾着袋なんかを預かって、『これはなんですか?』って聞くんだ。そしたら、目隠しをして、余所を向いてるヤマチョウ様が『巾着袋です』って答えるんだよ!」 うわあ、そんなのに引っかかるなよ、伊佐木。 そう思って、僕は言った。 「そのお客さんが、『さくら』だったのに決まってるだろ?」 呆れた僕だけど、伊佐木は、どこかに飛んで行くんじゃないかっていう勢いで、首を横に振る。 「いや、それがさ! 俺もそう思ったんだけど! 俺が持ってるものまで言い当てたんだよ、ヤマチョウ様!」 「……はい?」 伊佐木は、持っていた袋から、一冊の本を出した。 「俺が、お弟子さんに、この本を黙って渡したんだよ! そしたら、お弟子さんが『書生さんから預かったこれは、なんですか?』って聞いて、そしたら、ヤマチョウ様が『本です』って」 「……それは、書生だから、本を持ってるだろう、って推量して……」 「だと思って!」 と、伊佐木はだんだん興奮していく。 「次に、この手ぬぐいを出したんだ。お弟子さんが『私が手に持っている物は、なんでしょうか?』って聞いて。そしたら……!」 僕がその先を言った。 「手ぬぐいです、って?」 ブンブン、と、伊佐木が首肯する。 「昼の二時からもあるんだ、ヤマチョウ様の説法! それ聞いて、お布施をおさめたら、懸想を叶える、『愛染明王様の矢』がいただけるんだ! それがあれば、おさわちゃんとの仲も……」 顔見てると、わかる、こいつが何考えてるか。 でも。 「千里眼に、恋を叶える矢、か……」 なんだろう、そんな特殊能力、ディザイアのニオイが、プンプン漂ってくる。
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