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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第202回   玖の十二
「お弟子さんがな、お客さんから物……例えば巾着袋なんかを預かって、『これはなんですか?』って聞くんだ。そしたら、目隠しをして、余所を向いてるヤマチョウ様が『巾着袋です』って答えるんだよ!」
 うわあ、そんなのに引っかかるなよ、伊佐木。
 そう思って、僕は言った。
「そのお客さんが、『さくら』だったのに決まってるだろ?」
 呆れた僕だけど、伊佐木は、どこかに飛んで行くんじゃないかっていう勢いで、首を横に振る。
「いや、それがさ! 俺もそう思ったんだけど! 俺が持ってるものまで言い当てたんだよ、ヤマチョウ様!」
「……はい?」
 伊佐木は、持っていた袋から、一冊の本を出した。
「俺が、お弟子さんに、この本を黙って渡したんだよ! そしたら、お弟子さんが『書生さんから預かったこれは、なんですか?』って聞いて、そしたら、ヤマチョウ様が『本です』って」
「……それは、書生だから、本を持ってるだろう、って推量して……」
「だと思って!」
 と、伊佐木はだんだん興奮していく。
「次に、この手ぬぐいを出したんだ。お弟子さんが『私が手に持っている物は、なんでしょうか?』って聞いて。そしたら……!」
 僕がその先を言った。
「手ぬぐいです、って?」
 ブンブン、と、伊佐木が首肯する。
「昼の二時からもあるんだ、ヤマチョウ様の説法! それ聞いて、お布施をおさめたら、懸想を叶える、『愛染明王様の矢』がいただけるんだ! それがあれば、おさわちゃんとの仲も……」
 顔見てると、わかる、こいつが何考えてるか。
 でも。
「千里眼に、恋を叶える矢、か……」
 なんだろう、そんな特殊能力、ディザイアのニオイが、プンプン漂ってくる。


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