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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第201回   玖の十一
 八月八日、午前零時二十分。冥空では、八月十日の午後零時二十分だ。
 例によって、帝都文明亭へ行ったけど、昼食時なんで、中は、お客様でいっぱいだった。
 なので、しばらく外をぶらつくことにする。で、僕は、日付確認用に買った新聞を読んでいた。
 基本的に、記事は、前に読んだ、同じ日付のものとあまり変わらない。しかし、それでもループするごとに、小さな点が変わっていたりする。この理由は、一応「以前は、取り上げられなかった記事が、記載されているのではないか」とか「変質が起きていた場合、その辻褄合わせによる、記事が生まれているのではないか」なんて推測されているらしい。
 このあたり、この間から読んでる、量子力学の理論に似ているところがあるな。
 量子力学って、解釈によってかわるところはあるんだそうだけど、今、僕が読んでる本によると、「A、Bと二つの可能性が考えられる場合には、そのどちらもが、同時に存在する」んだそうだ。もっというなら、「Aという可能性も、Bという可能性も、どちらも『確率的』に存在するだけであって、確定されたものではない」そうで、「かくある」と決めた瞬間、AかBになるらしい。
 言い換えたら、確率的にCという可能性が存在しえない場合には、絶対にCという可能性は実現しない、ってこと。
 だからこそ、この大正十二年界で、「魔災の種を潰す」っていう可能性を確実なものにする、「魔災は起きえない」ものにするっていうことなんだろうけど。
 でも、なんとなく、なんだけど、僕は「それ」になんか、引っかかるものを感じてるんだ。それが何なのか、今のところ、明確な形にはなっていないけど。
 しばらく歩いていると、前の方から、伊佐木がやってくるのが見えた。
「よう、救世」
 僕に気づき、伊佐木が近づいてくる。そして。
「そうだ、お前、知ってるか?」
「何を?」
「愛染明王ヤマチョウ様だよ」
 そう言われたけど、僕が首を傾げたんで、伊佐木は懐から一枚の紙を出した。
「帝都に顕現せし、愛染明王の化身、ヤマチョウ様の大験力(だいげんりき)。紳士淑女の懸想(けそう)を叶える、ヤマチョウさまの敬愛(きょうあい)の、天弓の威力を見よ」なんて文字が躍ってる。
「うさんくさいなあ……」
「ああ? 救世、この方は本物だぞ? 俺も、さっき道場に行ったが、その千里眼はすごかった」
「千里眼?」
「ああ!」
 と、伊佐木は、興奮冷めやらぬ体(てい)で、言った。


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