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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第20回   壱の十八
 ここに来ているのは、僕の他に浅黄さん、紫雲英ちゃん、そして着物姿の梓川さんだ。梓川さんって、西洋風の顔立ちのロングヘアの美人で、眼鏡かけてるから、なんていうか、着物があんまり似合わない感じがする。
 あくまでも僕の主観だけど。
 梓川さんは、こっちではどこかの会社で、事務をしているそうだ。「どこかの」というのは、彼女自身、よく「認識」できないからだという。
「なぁんか、こっちに、あたしとプロフィールを共有できる、適当な人がいないらしいのよねえ。まあ、雨風しのぐところはあるし、お食事は紫雲英ちゃんがいるし」
 と、ケラケラ笑ってる。
 冥空裏界における、自分のアイデンティティの危機だと思うけど、いいのかな?
 帝都文明亭、午後一時四十五分、僕と浅黄さん、梓川さんは、簡単なミーティングと、遅い昼食をとりに来ていた。
 浅黄さんが言うのには、
「例の合崎だけど。役場に来る人に、それとなく聞いてみたが、あちこちで詐欺を働いてるみたいだな。小さいのは十銭、二十銭程度の剰銭(じょうせん)詐欺、大きいのは十数円単位の電報為替詐欺だ」
 剰銭詐欺っていうのは、この間のペーパー師詐欺、電報為替詐欺っていうのは。
 どこか余所へ出かけている誰かの名前を使って、家に電報を打ち「緊急でお金が必要だから、為替でお金を送って欲しい」と伝える。家人が為替でお金を送り、それをだまし取る。
 今でいう「オレオレ詐欺」みたいなものだ。でも、これは合崎(ごうざき)が、顕空の合崎(あいざき)さんで、その知識を使ったわけじゃないらしい。
「記録によるとね、昭和の初め頃には、あったんですって、電報為替詐欺。人間の業(ごう)って、古くからかわんないのねえ」
 と、梓川さんは呆れる。
「そっちはどうだ? 例の新興宗教と、ディザイア、繋がりそうか?」
 浅黄さんの言葉に、僕は懐から手帳を出し、説明した。
「例の宗教ですけど。教祖の名前は迫水(さこみず)法螺無(ほうらむ)。一応、本名らしいです」
 僕は、手帳のページを見せる。浅黄さんが「村嶋じゃないか」と呟くのが聞こえた。どうやら、もう一人の意識不明者と、関係がある、と思っていたらしい。梓川さんも同じだったらしく、「ディザイアと無関係か」なんて言ってる。
 僕は説明を続けた。
「教義は『化神教で修行すれば、神に化わることができる』だそうで、そのためには一切の執着、特に金品に対する執着をなくす事、だそうです」
「それで、金品を巻き上げてるのか」
「あたしも、今度から、相談者にそう言おうかしら?」
 僕と浅黄さんが見たんで、梓川さんが、手をヒラヒラとさせた。
「や、やあねえ、冗談に決まってるじゃない!」
「……そうか?」
 浅黄さんが疑わしげに見てるけど、僕は先を続けた。
「気になるのは、半年前から活動してるっていう事なのに、最近、いきなり出現してるっていう事です」
 一応、可能な範囲で調べてみたんだ。例の「教会」があるところ、僕の記憶では、時間が巻き戻る前は、確かに更地だった。初めて冥空裏界に来たとき、いろいろと見て回ってたんだ。でも、今日行ってみると、なんだか、デッカい建物が建ってる。ひょっとしたら、時間が巻き戻った際に「教会が建っていた」ことになったのかも知れないけど、ほかにもおかしいところがあった。
「今回、時間が巻き戻った直後、僕がお世話になってる材木店で、化神教の話は一切聞いてないんです。でも、今朝、まるで昔からの話題だったかのように、化神教の名前が出てました」
 炊事場で手伝いをしているとき、お手伝いさんが「僕と化神教の話を、何度もしている」のを前提にしているかのように、話しかけてきた。
 それを聞き、浅黄さんが唸った。
「急に認識が変わる。禍津邪妄か、ディザイアで間違いないな」
 どうやら、ディザイアがこちらに現れた時、社会とか、人々の認識が、狂うみたいだ。
 その時、料理が運ばれてきた。僕はオムライス、浅黄さんはライスカレー、梓川さんは、コロッケだ。そして、ムスッとした表情で、紫雲英ちゃんが浅黄さんの前にサラダを置いた。
 サウザンアイランドドレッシングが、かかっていた。


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