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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第2回   序の二
「今度こそ、この帝都を護る!」
 天夢ちゃんが、そう言って、腰の剣を抜く。両刃で、白く光る刃を持った、長さ七、八十センチぐらいの剣だ。満月の冴え冴えとした光を受け、刃が、光る太刀筋の残影を、空間に刻む。
 その柄頭(つかがしら)に何かを差し込み、天夢ちゃんが呪文らしきものを唱えると、刀が紅の光を宿した。
 その時、また、空から、さっきと同じ女性の声が降ってきた。
『救世(くぜ)、左方向だ!』
 僕は反射的に、左を見た。
 百メートルぐらい先のビルの屋上に、大淫婦がいた。
 もう、あんなところまで移動したのか。
 僕は、脚に氣を巡らせ、飛び、着地し、壁を走る。残念ながら、同じような高層ビルがないから、時々、低い建物を経由するけど、それでも、大淫婦の居場所は見失っていない。
『結界の用意が出来た。一撃で仕留めろ!』
 一撃。今の僕に、それだけの技があるだろうか?
 疑問はあったけど、それでも、やらないとならない。
 目的のビルの屋上にたどり着いたとき、僕は、すぐさま氣を拳に溜め、足を踏みつけて、今、会得している最強の技「徹甲(てっこう)拳」を放った。僕の右拳の先から、青く光る氣の奔流が、五メートルほど先にいる大淫婦を撃つ。でも。
 大淫婦はビクともしていない。やっぱり、充分に氣をチャージできなかったし、踏みつけによる剄力も甘かったようだ。
 いや。
 そもそも、僕が未熟なのかも知れない。
 直後、天空に小さく光る円が現れた。それが、六方向に、放射状に広がる。等間隔に円が生まれて光り、円の数が全部で十九個になった時、一番外側にある光円から弧が伸びて、虹色のサークルを作った。これが、さっき、声が言っていた「結界」だ。正確には「トホカミ結界」というそうだ。詳しくはわからないけど、中心の円が「ト」、右回りの内側から「ホ、カ、ミ、エ、ミ、タ、メ、ハ、ラ、ヒ、タ、マ、ヒ、キ、ヨ、メ、タ、マ」と続き、巨大な六角形全体で、「フ」を奏でるのだそうだ。
 本来ならこれで、大淫婦の動きは封じられるはず。でも、僕が充分なダメージを与えられなかったから、大淫婦は悶えながらも、身体の自由を失っていない。そして。
 大淫婦が咆哮し、七つの口から、黒い球(たま)を、空に輝く満月に向かって吐き出した。
 七つの黒い球が満月に命中したとき、空がひび割れ、震えた。まるで、大地で起きる地震が空で起こったように。
『……大空震が始まったか……』
 女性の、諦めの声が届いた。その時、ケルベロスの方からも、黒い球が三つ、空に向かうのが見えた。
 夜空に、濁った虹色の亀裂が走る。
 そして。
 夜空が砕け、その亀裂が空間全体に波及していった。

 僕たちは。

 いや。

 僕は、帝都を護れなかった……。


(序「帝都、壊滅の刻」・了)


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