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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第198回   玖の八
 野々見東で遺体となって見つかった、奥坂直次については、殺人事件として、帳場を立てることになった。
 当初は拳銃自殺、ということも考えられた。自家用車の中で運転席のシートに座り、右手には拳銃、右のこめかみに銃創、四ドアのセダンだったが、ドアは全て施錠。
 だが。
 午後六時、自殺に疑問がある、ということについて、今ひとつ、理解できていないらしい富部純佳(とんべ すみか)巡査に、古瀬秋恵強行犯係係長は言った。
「御遺体の首筋とか、左の腹部……第十番肋骨のすぐ下のところに、生活反応のある『打ち身』のあとがあるの」
「なんですか、それ?」
 首を傾げる純佳に、秋恵は言った。
「明らかに打ち身の後とわかる、要するに内出血を起こしている、なんていう痕跡、どう考えても、不自然でしょ? そんな傷、どこで負ったの? そもそも、なんでそんな傷、負うことになったの? それにね、右手に火薬残渣はあったけれど、手の甲には、ほとんどなかったわ。それってね?」
 と、秋恵は純佳の右手を、手の甲側から覆う。
「こんな風にして銃を持った手を掴めば、手の甲側には、火薬残渣が出にくくなる。つまり」
 純佳が頷いた。
「誰かが、奥坂の右手を持って、銃の引き金を引いたんだ。自殺なら、そんなこと、有り得ませんよね?」
 国見章由(くにみ あきよし)巡査部長も言った。
「そういうこと。おそらく、何者かが奥坂の首筋や腹部に当て身を喰らわせて、動きを封じてから、銃を握らせ、こめかみに当てて、引き金を引いた。ただ、犯人にとって誤算だったのは、当て身をやった時に内出血が起きたこと。そうならないように加減はしたんだろうが」
「肋骨の辺りは、あまり筋肉もないし、夏で、薄着だったし。首筋のものも、当たり具合が悪かったんでしょうね。何より、なんらかの理由で、右手の甲に硝煙反応を、うまく残せなかった」
 国見が考える。
「多分、ですけど。犯人は後部座席にいて、後ろから奥坂の手を持って、引き金を引いた。すぐに手を離すつもりだったが、ドアと頭部との間に、それほど隙間がなかったか、あるいは銃撃のショックで奥坂の体が痙攣でも起こして、犯人が右手を覆ったまま、ウィンドウに打ち付けられたか」
 秋恵は頷いた。
「おそらく、そんなところでしょうね。それに、御遺体の第一発見者の証言によると、現場付近から走り去った白いセダン、ナンバープレートが見えにくいように、汚れがついていた、なんて、『自分が何か、やらかしました』って言ってるようなものよ」
 そして、殺人事件として捜査することになったのだが。


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