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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第197回   玖の七
 五日・土曜日の取引には、阿良川を行かせた。そして行ってみると、ロッカーの中には、ディスクなどはなく、その内側天井に、何かが貼りつけてあったそうだ。それには「授受方法は、また連絡する」旨のことが書いてあった。そこで、阿良川は、そのロッカーを張った。一時間後に(相手は、警戒して、どこかから見張っていたのだろうが、その時間まで張っていた自分の粘り勝ちだ、と、阿良川は自慢げに言った)、男がやってきて、該当ロッカーをチェックする素振りを見せた。
 この男で間違いない。そう思い、阿良川は、男を尾行した。「奥坂」という苗字を突き止めたことを聞き、修司はある「メモ」を、その男のもとに残すことを指示した。いわく。
「当方には、オリジナル・コピーを含む、すべてを買い取る用意がある。ついては、八月七日、月曜日、午前十時に、上石津市の野々見東・森林公園で話し合いを持ちたい。そちらの素性は、もうすべて掴んでいる」。
 もちろん、ハッタリだ。苗字以外、素性はまったくわからない。念のため、阿良川は、簡単な「聞き込み」を行ったそうだが、不自然に思われないようにするためには、「あの部屋に住んでいる、奥坂さんについて尋ねたいこと」といっても程度や限界がある。例えば「結婚の話があって、身上調査をしている」風を装おうにも、妻帯者である可能性もある。かといって、あまり突っ込んで聞くと、こちらが疑われる。なので結局、勤め先すら、聞くことは出来ず、妻帯か否かは不明だが現在は一人暮らしらしい、ぐらいのことしかわからなかったそうだ。
 かくして、今日。奥坂はやってきたらしい。本当なら、相手に金を渡し、そのあとで、加減を考えて脅させ、手を引かせる計画だったのだが。
 殺してしまったものは仕方がない。
「となると」
 と、修司は考える。
「警察が動くのは、間違いない……」
「社長、それは問題ありません。自殺に見えるように、偽装しておきました」
 その言葉に、修司はきつい調子で言った。
「日本の警察を甘く見たらダメだ! この間も、去年起きた、我が社の社員が殺された事件を、『捜査が進んでいない』などと言いながら、今になって解決したんだ!」
 ちょっと考えて、阿良川が頷く。
「確かに。……証拠は残しちゃあ、いない、と思うんですが。発見されるのも、早すぎましたね……」
「となれば、警察に、圧力を……」
 修司の頭が回り始めた。焦ったなりに、善後策を練らねばならない。


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