五時半。 呼んでおいた男が、社長室に入った。 「お呼びですか、社長?」 入ってきた男……阿良川夏彦(あらかわ なつひこ)が、ずかずかと歩を進める。 その男を見る目が厳しくなるのが、修司にも自覚できた。 この男は、以前、反社会的組織にいた。トラブルで「破門」になり、刑に服した。この男に関わった保護司が、たまたま修司の知り合いであり、面倒を見てやって欲しい、と頼まれたのだ。まだ、三十五歳だという。 「前非を悔い、心を入れ替えているから」ということだが、そうではないことは、すぐにわかった。社を叩き出そうとも思ったが、何かの折りに、汚れ仕事をこなしたことから、そのまま置いておいたのだ。 「阿良川。ニュースを見た。なぜ、殺した!?」 この部屋は、防音は完璧だ。密談に使うこともあるから、盗聴器などにも細心の注意を払っている。 阿良川は、ソファに、どっかと座る。大柄な身体のせいか、ソファがその衝撃できしんだ。 「金を強請ってくるような男など、一度でも金を与えたら、いつまでも強請ってきますよ?」 「だからといって……!」 「今さら、ビビるこたぁ、ないでしょ? 津島って奴の時は、『始末しろ』って言ったくせに」 それを言われると、反論できないが。 「た、確かに、そうだが。だが、あの奥坂という男まで殺したら、警察に疑われるかも知れない! 金を渡した後で、適度に脅せ、と言ったはずだ!!」 「逆ですよ、社長?」 「逆?」 よくわからないことをいう。 「奥坂って奴を生かしといたら、下手をすると、津島殺しに、我々が関わっていることを突き止められるかも知れない」 「……そういうもの、なのか?」 阿良川は頷く。 「それに、『あの男』に対する、牽制にもなる」 「女」からの報告で、「あの男」が、妙な動きをしていることがわかった。どうやら「あの男」が、幹山という社員を中継して、津島というフリージャーナリストと接触しようとしていることもわかった。「女」を使い幹山を調べさせたが、彼は、本当に何も知らないようなので、次に津島を探らせた。どうやら、津島は帝星建設と、県議会議員の土原光武との繋がりを、掴んだようだ。それとなく、何らかの、その「証拠」を買い取りたい旨を伝えたが、津島は拒否した。 中埜石市の、中埜石中央駅・駅前の再開発事業、これだけは、なんとしても成功させねばならない。 なので、やむなく津島を「黙らせる」ことにしたのだ。
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