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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第194回   玖の四
 言いながら、修司は不自然なものを感じざるを得ない。それは武良も同じらしい。
「そうですか。でも、どうして彼女が、私のことを知ってるんですか? それに見ず知らずの私に、『贈りもの』なんて?」
「それなんだが」
 と、いくつかの材料から推測したことを、修司は言う。
「彼女は、事前に、我が社の社内報を手に入れているフシがある。我が社のことを調べている形跡もある。これは、私の推測だが、『将を射んと欲すればまず馬を射よ』ではないか、と思う。つまり、C−membersの買収に伴い、それをトラブル無く、円滑に進めるために、買収に応じても、我が社との取引は続く、さらに企業体力も向上し、社員の身分も保障。そのことを、我が社にも、それとなく伝えて欲しい、ということではないか、と思う」
 武良が頷く。
「随分、ソフトなM&Aですね? 生ぬるいように思えますが?」
「札ビラで頬を張るような真似をしたら、禍根が残る、そういう判断じゃないかな? あくまでも私個人が思うことだがね」
 修司も不自然に思わなくもない。相手の弱みにつけいり、抵抗できない状態にして、有利な条件での合併・買収を行う。これが理想のはず。だが、あの女が外資系のエージェントというのは、あくまで噂に過ぎない。本当に何らかの事情で、相手の企業の基盤を残しつつ、買収をしたいのかも知れない。
 うがった見方をすれば、買収に応じなければ、帝星建設との契約が危うくなる、のような「婉曲な圧力」をかけるよう、要請しているのかも知れないが、さすがにそれは深読みしすぎだろう。それに、そこまでして買収したいほど、C−membersという企業は、修司の目には魅力的に映らない。「C−members」という企業そのものに、なんらかの目的があるのかも知れないが、それならそれで、修司にはどうでもいいことだ。
「まあ、それはともかく。あけてみたまえ」
 その言葉に、武良が箱を開ける。中の物を見て言った。
「これは……。竹刀袋、ですね?」
「模造刀、だそうだ。許可等、いろいろと問題があるから、取り扱いについては、厳重に注意して欲しい」
 袋を開け、武良は中から日本刀を出す。さらに鞘を抜いた。
 修司の目にも、背筋が凍るような冷たい光が、刃に浮かぶのが映る。その瞬間、「なぜ、こんな模造刀を受け取り、正力武良に与えようと思ったのだろう」という疑問が浮かんだ。それはまるで「正気に返った」かのような、感覚だ。あの女と会っていた時の自分は、催眠術にでも、かかっていたのだろうか? そんな疑問すら浮かんできたが、それに対して深く思いを致す前に、武良が言った。
「……村正ですね?」
 その声は、武良のものであって、そうでないような気がした。
「え? さ、さあ? 君には、わかるのかね?」
「ええ。銘を見るまでもありません。伝わってきます。……これは、素晴らしい刀ですよ?」
 そして、笑顔を浮かべる。
 人間のものではないような気がした。


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