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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第191回   玖「二人の想いの、その先」の一
 僕が担当するフロアは、四階。ここには、建設計画とかを担当する「開発事業部」とかいうのと、経理を担当する「経理部」っていうのがある。
 もちろん、僕一人がやるわけじゃなくて、二人一組で、トイレとか使われていない小会議室、廊下なんかを担当する。基本的に、細かいところまで清掃するのは朝シフトと、午後シフトの人たち。昼シフトの僕たちは、悪い言い方をすると、目立つ汚れとかを、清掃したり、落ちているゴミを拾ったりするだけ。
 皆さんがお仕事している横で、雑巾で窓を拭いたり、クリーナーの排気音とかさせていたら、邪魔でしょうがないからね。
 僕は、生田さんと一緒に、廊下に、軽くモップ掛けをしていた。すると、生田さんが知ってる人に出会ったらしく、笑顔で会釈した。
「やあ、たえちゃん。いつもご苦労様」
 その人は、二十代後半って感じの、いかにもさわやかな好青年風の人。
「どうも。ムラさんも、ご苦労様です。あ、今度の県予選、頑張ってください」
「有り難う。……君は?」
「ムラさん」って呼ばれた男の人が、僕を見る。
「僕、バイトの、救世っていいます」
「そう、くぜくん、か。頑張って」
 と、笑顔を向け、歩いて行った。
 その人が経理部のドアの前で出会った誰かと「経費で落ちるよね?」なんて話してるのを見て、僕は何となく、聞いてみた。
「あの人、ムラさんっていうんですか」
「ん? 正しくは、武良(たけよし)さん……武士の『武』に、優良可の『良』って書くんだけど、みんな『武良さん』『ムラさん』って呼んでるから、私たちも、ね」
「どういう人ですか?」
 なんか「ムラさん」っていう響きが、頭の何かに引っかかってるんだ。だから、ちょっと突っ込んで聞いてみることにした。
「営業部営業二課の人。見ての通り、好青年。社の剣道部に所属してて、小さい頃から剣道やってて、すっごい腕前なんだって」
「剣道、ですか……」
「うん。剣道の、なんかの全国大会で、去年、社会人個人の部で優勝した人でね、今年も期待がかかってるの」
「すごい人なんですね……」
「そう。イケメンだから、狙ってる女性も多いっていうけど、私はねえ……」
 その口ぶりが気になって、僕は聞いた。
「何か、気になることでも?」
「うーん。なんか、中に『ギラギラ』っていうか、『ガツガツ』っていうか、そういうのがあるの、あの人。そこがいい、っていう女性も多いんだけど、私は、そういうのは、ちょっとねえ」
 と、困ったような表情になる。
「ちなみに、武良(ムラ)さんの『武良(たけよし)』って、苗字ですか?」
「ううん。苗字は、正しい、に、力って、書いて、正力(しょうりき)さん。正力武良(しょうりき たけよし)さん」
「正力、武良さん……」
 その名前に、僕の中の「引っかかり」が形になりつつあった。


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