片岡が言った。 「退社時間になると、市内をドライブしているんです」 「ドライブ?」 「はい。それが、自宅と職場を結んでるわけじゃなく、なんか、デタラメなんです」 「デタラメ、か……」 「あるいは」 と、文山が言う。 「何かを、あるいは、どこかを探しているようでもありました。時折、路肩に停車しているんです。地図か何かを、確認しているのかも知れません。多分、それに間違いないと思います」 片岡が言った。 「それで、一日、火曜と二日の水曜なんですが、同じ道を走ってます。まるで『一日に、目指す物を見つけ、二日に、もう一度、確認した』って感じでしたね」 「ほう?」 この片岡は、今年、配属になったばかりだ。まだまだ駆け出しで、今は戦力にならない、と思ったが、なかなかどうして、観察力は……。 「……って、ブンさんの読みですけどね」 と、片岡は苦笑交じりに、頭をかく。 「……そうか」 今、お前に抱いた期待を返せ。 その言葉を呑み込み、佐之尾は先を促した。 「で? 何を探してたんですか、ブンさん?」 片岡越しに、文山に尋ねる。 「それが、入り組んだ道に入られて、途中で見失ってしまったんです。かなり奥まったところにある住宅地でしたから、民家の可能性があるんですが、どこ、と特定するのは、今の段階では難しいですね」 「それで、今日なんですけど」と、片岡が言った。続きは文山だ。 「奴(やっこ)さん、仕事休んだらしく、朝早くから出かけました。高速に上がったんですが、午前中、連絡した通り……」 どこかで事故があったらしく、交通制限があり、そのタイミングのせいで、追尾できなかったという。 どこへ行ったのか、気になるところではある。まったくのプライベートの可能性も捨てきれないが、事件と関係がある可能性もまた、捨てきれない。 そう思っていたら、部下の一人が受話器を片手に言った。 「警部、上石津署から連絡です。上石津市の北西部で、男性の死体発見。免許証の照会の結果から、中埜石市在住の、奥坂直次と思われる、とのことです」 「……なに?」 衝撃が胸を貫く。思いも寄らぬ、報告だ。 「拳銃自殺らしい、とのことですが、詳細は現在、捜査中とのこと」 文山が、緊張で表情を強ばらせた。 「警部。……申し訳ありません」 頭を下げる文山にならい、片岡も頭を下げた。 「いや、二人のせいじゃない」 佐之尾も、そう言うのが精一杯だった。
(捌「天夢の想い、紫雲英の想い」・了)
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