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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第190回   捌の二十六
 片岡が言った。
「退社時間になると、市内をドライブしているんです」
「ドライブ?」
「はい。それが、自宅と職場を結んでるわけじゃなく、なんか、デタラメなんです」
「デタラメ、か……」
「あるいは」
 と、文山が言う。
「何かを、あるいは、どこかを探しているようでもありました。時折、路肩に停車しているんです。地図か何かを、確認しているのかも知れません。多分、それに間違いないと思います」
 片岡が言った。
「それで、一日、火曜と二日の水曜なんですが、同じ道を走ってます。まるで『一日に、目指す物を見つけ、二日に、もう一度、確認した』って感じでしたね」
「ほう?」
 この片岡は、今年、配属になったばかりだ。まだまだ駆け出しで、今は戦力にならない、と思ったが、なかなかどうして、観察力は……。
「……って、ブンさんの読みですけどね」
 と、片岡は苦笑交じりに、頭をかく。
「……そうか」
 今、お前に抱いた期待を返せ。
 その言葉を呑み込み、佐之尾は先を促した。
「で? 何を探してたんですか、ブンさん?」
 片岡越しに、文山に尋ねる。
「それが、入り組んだ道に入られて、途中で見失ってしまったんです。かなり奥まったところにある住宅地でしたから、民家の可能性があるんですが、どこ、と特定するのは、今の段階では難しいですね」
「それで、今日なんですけど」と、片岡が言った。続きは文山だ。
「奴(やっこ)さん、仕事休んだらしく、朝早くから出かけました。高速に上がったんですが、午前中、連絡した通り……」
 どこかで事故があったらしく、交通制限があり、そのタイミングのせいで、追尾できなかったという。
 どこへ行ったのか、気になるところではある。まったくのプライベートの可能性も捨てきれないが、事件と関係がある可能性もまた、捨てきれない。
 そう思っていたら、部下の一人が受話器を片手に言った。
「警部、上石津署から連絡です。上石津市の北西部で、男性の死体発見。免許証の照会の結果から、中埜石市在住の、奥坂直次と思われる、とのことです」
「……なに?」
 衝撃が胸を貫く。思いも寄らぬ、報告だ。
「拳銃自殺らしい、とのことですが、詳細は現在、捜査中とのこと」
 文山が、緊張で表情を強ばらせた。
「警部。……申し訳ありません」
 頭を下げる文山にならい、片岡も頭を下げた。
「いや、二人のせいじゃない」
 佐之尾も、そう言うのが精一杯だった。


(捌「天夢の想い、紫雲英の想い」・了)


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