八月三日の木曜日、午後一時が、幹山由貴彦の希望日時だった。 本当ならこちらから行くところだが、幹山の方から中埜石市にある県警本部に来る、ということだった。やはり、上石津市では、帝星建設の、誰かの目に止まる、ということだろうか。 幹山の話によると、最初は、不審なメールだったらしい。簡単に言うと、副業で副収入、のような話だったらしい。送り主に心当たりはなく、内容も不審だったことからイタズラだと思い、無視していたが、三回目か四回目の時、社屋内の特定の場所に、「副収入のヒント」があると、あった。試しに行ってみると、一通の封筒。それには五万円と、メモがあった。そのメモには。 「このアドレスに空メールを打てば、副収入のヒントその二を与える」 のようなことがあった。 以降、同じような事が続き、結果、一つの厳重に梱包された封筒と、「七月十二日に、津島というジャーナリストに会って、封筒を渡せ」というメモにたどり着いた。 「おかしいんです。津島って人、『メールくれてた人ですね?』とかいって私のことを知ってるような口ぶりだったんですけど。でも、私、その人知らないし、ましてや『御社と土原議員との関係についての証拠を、提供していただけるとか?』って言われたときは、何が何だか。でも、そのあと、その津島って人、殺されたってニュースで知って。恐くて恐くて」 どうやら、自分も殺されるかも、と思って、今まで誰にも言い出せなかったらしい。そのメールも見せてもらって、発信元を調べたら、ネットでの闇ルートのプリペイド携帯だった。残念ながら、そこから辿るのは難しい。 要するに、幹山は何者かに遠隔操作されていたようだ。 「ヒントらしいものはなし、か」 八月七日、午後一時。これまでの資料を整理しながら、佐之尾は呟いた。 今回、幹山は警察の方から接触したことにより、話す気になった、ということだったから、身の危険を感じながらの生活だったのだろう。 その時、文山と片岡が帰ってきた。 「何か、わかりましたか、ブンさん?」 と、佐之尾は文山に言った。二人には、例の手紙を提出した奥坂について、調べさせていたのだ。 文山は首を横に振る。 「特に、これといっては。口座に不審な動きもありませんし、誰かと接触している気配もありません。ただ、電話を通していたら、わかりませんが」 そのあとを、片岡が続ける。 「ただ、妙な動きをしているんです」 「妙な動き?」 奥坂が提出した手紙は、もはや「不審物」といってもいい。佐之尾が引っかかっているところの一つは、最後の一文「しつこいようだが、本当に頼む」だ。流れから見て、何かを頼み、それに対して念を押しているようだが、それに該当する文言が見当たらない。ひょっとして、手紙以前に依頼していた事かも知れないが、それなら、そのことを特定できるキーワードがないと、奥坂にもわからない可能性がある。 そして。 これは、直感に近いが、手紙の流れから考えたら、それは土原と帝星建設との癒着に関係したもののはずなのだ。 となると、あの手紙以外に「何か」があって、その「何か」に依頼した内容があった可能性が高い。その「何か」に基づいて動くことを想定し、文山と片岡には、奥坂を調べさせたのだが。
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