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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第187回   捌の二十三
 用事を終えた沢子さんがこっちに向かってくる。意味深な笑顔で言った。
「心さん、こんばんは。今日は、梓川様とご一緒なんですね? 誠吉さんの話だと、女学生の神室さんと、帝都文明亭の紫雲英さんとも、仲がいいとか? 今度から、心さんのこと、世之介さん、て呼んでもいいですか?」
 よのすけ、っていうのが、なんのことかさっぱりわからないんだけど、それを確認するのが目的じゃない。
「あのさ、沢子さん。面白いうわさ話、聞いたんだ」
「うわさ話?」
「うん。この街にね、妖怪から帝都を護る、護世士っていう人たちがいるんだって。護衛の護に、世の中の世、武士の士っていう字を書くんだけど。で、彼らが、『ソクシンショウセイ』っていう呪文を唱えると、結界が張られて、外から中の様子はわからないし、入ることも出来ない。中にいる妖怪も、外へ出られない。こうやって、護世士は、帝都を、妖怪から護ってるんだって」
 次の瞬間、辺りに静電気のようなものが、走りまくった!
「え!? 変質!? どうして!?」
 沢子さんは何かブツブツ言いながら、僕に背を向けて、歩き始めた。そして。
「うしッ!!」
 と、貴織さんが僕に向けて、笑顔で右手で、サムズアップする。
「ちょ、ちょっと!! 貴織さん、これ、どういうことですか!?」
「いやあ、うまくいったわ!」
 うまくいった? 今、この人、「うまくいった」って、言いやがりましたよ!?
「護世士、なんて概念ないし、変質は起きないってことだったんじゃあ……!?」
「やだなあ、救世くん。何百サイクルも街の中で、禍津邪妄とか、ディザイアとかと闘ったりしてて、『帝都を騒がす怪物と、闘っている何者か』っていう概念が、定着してないわけ、ないじゃない!」
「……」
「それに、副頭も言ってたでしょ、あたしたちのこと、『帝都を護る者』として、顕空・冥空双方から、認識されてるって!」
「どういうことか、説明してもらえますよね?」
 こめかみに青筋が浮かぶのを感じながら、僕は言った。
「実はね」
 と、充実感たっぷりの……それは、イタズラが成功したときのイタズラ小僧の笑顔に見えた……貴織さんが話し始めた。
「戦闘時に、結界を張らないと、あちこちに被害が出る怖れがあるし、ディザイアとかが逃走する怖れもある。でも、アタッキングメンバー全員が結界形成の能力を持ってるわけじゃないし、また、修得できるって訳でもない。顕空のものが持ち込めればいいけど、それは無理だから、咒符とかアイテムでどうにかするってこともできない。だから、長らく、結界のことは懸案事項だったの。あたし、ここの変質を利用すればいいんじゃないか、って気がついたのね? で、千紗とか、新ちゃんにも詳しく相談したの。で、『もしかしたら、以前にも同じことを考えた人がいたんじゃないか』ってことになって、古い記録を調べたら、やっぱりいたの、同じことを考えてた人。救世くんに見せた、あの紙、その時の提案書の一部だったのさ」
「いや、『だったのさ』、っていわれても。まあ、それ、引っ張り出してきた理由は、何となく、わかりますけど、なんで、『僕』だったんですか?」
「その提案書、実行された形跡があるんだけど、失敗してるのね。その失敗の理由は不明なんだけれど、もしかしたら、『思い込み』あるいは、『先入観』が邪魔をするんじゃないか、って推測が立ったの。ということは、何の予備知識もない救世くんなら、変な期待も抱かず、自然に、それこそ、『ポロッ』って言ってくれるんじゃないか、ってことになって」
「……モルモットですか、僕は?」
 あまりいい気分じゃない。
「まあまあ。おかげで、これから闘いやすくなったし、結果オーライってことで!」
 と、またサムズアップ。
 まあ、いいか。おかしな変質じゃないし。
「ああ、そうだ。救世くん、これから、ちょっと時間、いい?」
「え? なんですか、急に?」
「今日は七日、第二火曜日。あたし、こっちでは、どこに勤めてるか、よく認識できないんだけど、なぜか火曜日の夜は、『行かなきゃならない場所』があるの」
「……なんですか、それ?」
「さあ? あたしもさっぱり、なんだけど」
 と、何か考える。それが、また「何か企んでる」ように見えたけど、で、今の言葉も、嘘っぽく感じたけど、一瞬だったんで、多分、気のせい。
「その関係で、お手伝いしてもらえたら、助かるんだ」
「お手伝い?」
「うん。ちょっとした、力仕事」
「……あの、僕、そんなに腕力があるわけじゃ……」
 貴織さんが、笑う。
「大丈夫大丈夫! あたしには重たいけど、救世くんだったら、問題ないから!」
 
 で、そのあと、行った先の倉庫には、いかにも「学校の先生」みたいな人がいて。貴織さんに、「そこにある荷物、紙に書いてある位置に、指示通りに持っていって」みたいなこと言われたけど、そんなに重くなくて。このぐらいなら、貴織さんでも楽勝で運べるのにな?なんて思ってたら、貴織さんが、「学校の先生」みたいな人に何か耳打ちして。僕にも耳打ちで「荷物の上に書いてる文字、読んで」っていわれて。見ると、荷物の上に何かが書いてあって、指示通りに置いたことでそれが「文字」になってたんで、それを読んだ。
「がーどろうわー」
 すると、また、静電気が走った。
「学校の先生」みたいな人が何か、ぶつぶつ言うのを見ながら、僕は言った。
「貴織さーん! 今度は、何やったんですか!?」
 涙が出そうになった。
 貴織さんは、複雑な笑みで言った。
「ゴメンね、救世くん。これは、理由は教えられない。でも、あたしたちの……特に天夢ちゃんのためなの」
 天夢ちゃんのため?
 意味がわからない。


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