で、僕はここにいる、と。 冥空裏界では八月七日の火曜日だった。現実でも、月曜日だけど八月七日の午前零時十分頃。 メチャクチャするよなあ、白倉さん。 でも、なんで、今日ここに送り込まれたんだろ、貴織さんともども? 今、僕たちがいるのは、缶田の通り。天夢ちゃんが通学路に使っているっていう、あの道だ。でも、僕はここを「JK通り」と呼ぼうと思う。 貴織さんも、何だか、微妙な笑顔になってる。「ここ、本当に大正十二年?」とかって、首、傾げてるし。 「貴織さん、なんで、僕たち、ここに送り込まれたんですかね?」 時刻は、そろそろ午後六時。途中で見かけたお店の時計が、狂ってなければ、だけど。 僕より、『半日』ほど早く来ていた貴織さんが答える。 「さあ?」 と、貴織さんは首を傾げたけど、なんか、不自然だった。まるで「知ってて隠してる」ように見えるけど、気のせいかも知れない。 「それよりさ、救世くん。あれ、試してみようよ?」 「え? 『あれ』?」 「うん。例の、ほら、変質が起きないってやつ」 「……ああ、あれですか。試すって、なんで? 変質が起きないってわかってるんだったら、何も今さら試す必要、ないんじゃ……?」 「わかってないなあ、救世くん」 と、貴織さんはちょっとむくれた。 「変質が起きなかった理由、あたしたちで、突き止めてみたいと思わない?」 「え?」 「だからね?」 と、貴織さんは、イタズラっぽく笑う。 「変質が起きないっていう理由は、一応『存在し得ない概念だから』って事になってるけど、確定じゃない。存在し得ない、そんな概念だったにもかかわらず、変質が起きた例がある。例えば、学校に夏休みがないでしょ? そんなのって、有り得ないの。でしょ?」 「……確かに。今まで『そんなものか』って思ってたけど、言われてみれば、おかしいですよね?」 だからね、と、貴織さんが続けた。 「有り得ないのに、実現してしまう例がある以上、その境界線を突き止めておいた方がいいと思うの」 そうか。その必要性も確認しておかないと、この先、困るかも? 「とりあえず、この話は、夕方、『うっかり』話しているらしいの。だから、変質を起こす怖れは……」 「え? そんなこと、書かれてなかったですよね」 「え? あ、ああ、あのね!? あのあと、もう一枚見つかって、それに書いてあったのよのよ!」 なんか、うろたえてるっていうか、様子がおかしいな? そう思っていたら、七、八メートルぐらい先に、沢子さんが見えた。手には、風呂敷包み。ある家の前で、着物姿の女の子の前で「頼まれていたお洋服」なんてことを言ってる。 沢子さんがこっちに気がつき、笑顔を向けた。 「貴織さん、とりあえず、沢子さんに話してみます」 「頼むわね、救世くん」 頷き、僕は近づいた。
|
|