適当に話をしながら街を歩いて、喫茶店で軽食&コーヒーブレイク。 で、なぜか僕が住んでる玄峰の話になって、そこのすぐ北にある「暦山(こよみやま)」の話になったとき。 「救世さん、あの山、なんで『暦山』っていうか、知ってますか?」 なぞなぞを仕掛ける子どものような笑顔で、天夢ちゃんが言った。 「え? いや、知らないかな? 暦山っていう名前は知ってたけど」 「あそこにですね……」 と、天夢ちゃんがスマホで何かを表示させる。 「頂上に、こういうものがあるんです。『暦磐座(こよみのいわくら)』って呼ばれてます」 見ると、日射しを受けて、中央にほぼ正円形の石があり、その周囲に、等間隔で八本の石柱(せきちゅう)が、円形の石を取り巻くように、環(かん)をなして立っている。 「ストーンサークル、かな、これ? 比較対象物がないから、大きさはわかんないけど」 「中央の円形の石、円盤石って一般には呼ばれてますけど……これは、直径が約二.四メートル、周囲の石の柱は、直径が約五十六センチ、高さは約六.四メートルなんだそうです」 「へえ」 と、僕はそれを見る。天夢ちゃんが言った。 「これ、何のために、作られたか、わかりますか?」 「え? ……天文観測、とか? イギリスのストーンヘンジなんか、そうじゃないかって説があったよね、確か?」 「それに似てます。今は風化とかで見えにくくなってるんですけど、円盤石には、いろいろと紋様があるんだそうです。それで、この柱は東西南北、東北・東南・南西・北西に立ってて、朝日を受けて出来た影が、どの紋様に来るか、で、それを種まきとか収穫とかの目安にしてたんじゃないか、っていわれてるんです」 「へえ。でも、それじゃあ、東に一本、あればいいんじゃない? 八本も、それも八方位に立っている意味ないよね? それに、頂上にあるって、不便な気もするけど?」 至極当然の疑問だと思うけど、天夢ちゃんは「さすが救世さん」なんてことを言ってから、別の何かを表示させた。イラストだった。 「仮説なんですけど。周辺に磐座……岩で出来た台座のようなものが、いくつかあったことが、わかってるそうです。それで、その内の三つほどが残っていて、その岩に模様が刻まれているんです。その模様が、八本の柱が、どういう方向から、太陽光を受けているか、どの紋様にかかっているかを、表したものらしくて、多分、なにかの儀式に使ったんだろうって」 「なるほどなあ。儀式なら、人里離れたところに作っても、不自然じゃないか」 古代史ロマンは、実は僕も好きなんだ。こういう話ならいくらでも話を聞きたいけど、多分、天夢ちゃんが僕に話したいのは、そういうことじゃない。なんとなく、だけれど。まるで、僕が住んでいる周辺のことについて、知識があるっていうことを、アピールしたように見える。 本当に、僕の気のせいかも知れないけど。 天夢ちゃんは、話を続けた。 「そういえば、暦山の南西側の麓なんですけど。あそこ、ニュータウン構想っていうものがあったんです。でも、去年の春頃だったかな? なんかの調査中だか、整地中だかに遺跡が見つかっちゃって、その構想が白紙になっちゃって。だから、この暦磐座も、もっと違う意味があったんじゃないか、っていわれてた時期がありました」 確か野々見東(ののみひがし)っていうエリアだったな。そういえば、遺跡の案内板を見た。いつかゆっくり見よう、と思ってて、バタバタして、忘れてたんだ。余談だけど、その西にある野々見西っていうエリアは西隣の石津(いわづ)市との境で、割と発展したところらしい。 そんな話をしていると、天夢ちゃんのスマホが鳴った。 それを見て、天夢ちゃんが一瞬だけ、眉をひそめる。小さく「白倉さんからメール」って呟いてた。 そのメールを確認し、一度、僕を見て、そして、もう一度、メールに目をやる。 しばらくして。 「救世さん、すみません、急用が入っちゃいました。あたしの方からデートのお誘いをしたのに」 「ああ、構わないけど。白倉さんから、だったの、メール?」 すると、天夢ちゃんは泣きそうな顔になって言った。 「はい。……これから、白倉さんとデート、です……」 ……。 「……ああ、そうなんだ。なんていうか、頑張って、ていうのは、……おかしいか」 変わらず泣きそうな顔で天夢ちゃんは頷く。そして。 「あの! ……あの。多分、今夜、救世さんと貴織さん、『あっち』に行くことになると思います。白倉さんが、メールで『送り込む』って言ってるので」 あいかわらず、ムチャクチャだなあ、あの人。 「あたしの運命、『あっち』での、救世さんの行動にかかってます! お願いします!」 と、訳のわからないことを言って、天夢ちゃんが頭を下げた。
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