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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第181回   捌の十七
 気がつくと、天夢は新たな鎧念を纏っていた。学校の制服と、よく似たデザインだ。だが、部分的に、「あの事件の時」のものに似ている。すなわち、腹部やへそが露出し、スカートの中は……。
「スースーする……」
「え? なんか、言ったッスか、天夢ちゃん先輩?」
「え? う、ううん、なんでもない、なんでもない!」
 さすがに、同性相手でも、この状況は話せない。それに、もし「そう」だとすると、うかつに立ち回りを演ずるわけにはいかない。
 だが、ムラマサは、刀を手に近づいてくる。
 どうでも、この場を切り抜けないと!
 剣を構える。不思議と、勝てないまでも、負ける気は起こらなかった。
 上着の内ポケットから、クリスタルの咒符を出す。今度は、咒は、単語一語ですむような気がした。
「都牟刈!」
 金色の輝きを放つ咒符を、柄の二つのスリットの内、一つに差し込む。剣が黄金の光を放つ。
 次なるクリスタルの咒符を出した。紫雲英が使う「銃弾」の力が使えるような気がした。頭の中に、この場で有効な咒符が浮かぶ。
「斬妖(ざんよう)符!」
 クリスタルの中に、斬妖符の符形が、銀色の光で描かれる。
 それを、もう一つのスリットにさした。そして。
 気合いをかけ、ダッシュする。先刻までのダメージも、疲労も、全く残っていない。
 ムラマサがうろたえたかのように、慌てて刀を構えるも、それを弾き、剣を打ち込む。だが、ムラマサも、それを避ける。一旦、後方に跳びのき、一転、奇声といってもいい気合いで、刀を打ち込んでくる。
「示現流……。なら」
 天夢は意識で氣力を制御し、バックステップを踏む。通常の、数倍もの距離を取ることができた。そして、近くの建物の壁に向かって、跳躍する。
 そこをジャンプ台にし、空中で身をひねり、着地と同時に身を沈め、一気にステップを踏む。地上五十センチほどの低空を、まさに滑空するが如き体勢で、ムラマサに迫る。
 ムラマサが刀を振り上げる。それを確認し、天夢は、急制動をかけた。以前なら膝の関節に負担の大きいアクションだが、今はなんともない。ムラマサが奇声とともに刀を打ち下ろすのを、紙一重でかわし、背後に回り込む。それに気づき、ムラマサがステップを踏んで刀を構え直す。
 それを見て、天夢は確信した。
 これは、示現流ではない。おそらく分派の薬丸自顕流あたりをかじった人間の、記憶が反映されているのではないだろうか?
 示現流は、習得するのが難しい。初太刀を重視し、二の太刀を使わないのは、示現流よりも、薬丸自顕流で意識される戦い方だ。一見、連続技のように見えたが、今のように軸線をずらされたことで構えを取り直した、ということは、初太刀を重視しているということ。
 鎧武者の誤った知識か、刀に宿る記憶に誤りがあるのか、その辺りは定かではないが、どうやら、ムラマサが「記憶」し、使うことができる剣技は、正伝を受けたものではなく、亜流、もしくはかじっただけの物のようだ。
 もう一つの剣技は新陰流だという。ある意味で示現流の源流ともいえる剣技だが、この分では、それも「ホンモノ」ではあるまい。
 神威天幻流の敵ではない。
 確信とともに、天夢は剣を構える。


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