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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第18回   壱の十六
 翌日、緊急会議があった。といっても、出席者は江崎副頭、結城さん、浅黄さん、僕の四人だけだ。
 あの名前にちょっと引っかかりがあったんで、記憶を辿って、桑原さんから聞いた名前を思い出し、図書館で新聞をチェックして、名前の共通性が気になったんだ。たいした事じゃないかも知れないけど、でも、なんか気になったんで、一応、本部にメールしておいた。
 時刻は午後六時三十分。実は、この日は五時からコンビニでバイトがあったんだけど、緊急会議だから仕方がない。
 副頭が言った。
「浅黄くんと救世くんから連絡があった件について、調査してみました」
 そう言うと、副頭は立ち上がり、ホワイトボードに「合崎昭雄」「合崎昭夫」と板書した。
「まず、前提条件をお話ししておきます。顕空現界の住人が、冥空裏界に赴いたとき、例外はありますが、大体において、名前については二つの状態になります。まず、こちらでの名前がそのまま、残る場合。もう一つは、名前に変化が及ぶ場合」
「変化?」
 一応、従姉妹から霊学に関する知識は仕入れていたけど、これは初耳だ。
「どういうことでしょうか?」
 副頭が答えてくれた。
「大雑把に言うと、本来の名前が一字、乃至(ないし)二文字程度、変わる、あるいは、読み方が変わる。そういうことです。なぜ、そのようになるのかについては、長くなるので、割愛しますが」
 そうか。じゃあ、僕たちは? 名前、変わってないけど?
「副頭。僕たちは、名前に変化がないですよね? なぜですか?」
「それは、我々が『帝都を護る者』として、顕空現界、冥空裏界双方から認識されているからです」
 ……。
 よくわからない。
 僕の顔に、でっかいクエスチョンマークが浮かんでいたんだろう、副頭は苦笑いで言った。
「そのうち、わかります」
 そして、結城さんが後を続けた。
「知り合いの病院関係者に聞いてみました。ホームレスが二人、意識不明で、収容されています。一人は、村嶋康造氏、もう一人は合崎昭雄氏」
 あの時の二人だ。
 副頭がホワイトボードを示す。
「この『合崎昭夫』氏は、『合崎昭雄』氏で間違いないでしょう。浅黄くんが調べてくれたところでは、詐欺被害に遭った人の証言から類推される人相は、合崎(あいざき)氏とみて間違いないようですから」
 浅黄さんは、あっちでいろいろ聞いて回って、詐欺師の人相書きを手に入れて、覚えて帰ったそうだ。で、それを大雑把に絵に描いて、本部に送ったらしい。
 副頭は、僕たちを見る。その瞳には、強い光が宿っているように見えた。
「間違いありません、『合崎昭夫』氏は、欲念体(ディザイア)です」
「ディザイア?」
 耳慣れない言葉に、僕がオウム返しに言葉を発すると、浅黄さんが答えた。
「禍津邪妄の進化形で、顕空の人間が、何らかの欲望を抱いて、冥空裏界で邪念をまき散らす事がある。そいつを、『欲』の『念』の『体』、ディザイアって呼んでるんだ」
「名前が変わってしまう場合、ほとんどのケースでは、ごく『普通』の生活を送るに過ぎません。しかし、何らかの犯罪など、強烈な意志による行動を取るということは、ただの『訪問者』ではありません」
 副頭は、席に着いて、続けた。
「ディザイアも、禍津邪妄と同じく、大正十二年界に歪みをもたらす存在です。放っておけば、歪みが蓄積し、魔災が起きる怖れがあります。魔災の根源が判明していない段階では、歪みを逐一、潰していく、対症療法しかありません」
 その言葉に、浅黄さんが頷く。
 副頭が言った。
「みんなには、僕から伝えます。浅黄くんたちも、もし向こうに行っているときにディザイアと遭遇したら、対処をお願いします」


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