20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第178回   捌の十四
 邪妄が攻撃に転じてきた。針の先端が、天夢を襲う。それを剣でいなし、次の攻撃に備え、剣を構える。すると、どういう動きをしていたのか、横から針が突進してきた。
 かわすことが出来ず、肩口をかすめる。それなりに痛かったが、傷は負っていない。この「ヨロイ」の防護力らしい。
 以前、貴織に金の勾玉が降りてきたときのことだ。その時は人間と変わらぬ大きさの、包丁の形をした禍津邪妄だった。その一撃を受けて、貴織の着物が切り裂かれたことがあった。刃物の動きから見て、体にも刃物が食い込んでいるはずだが、彼女は怪我を負っていなかった。どうやら、金の勾玉の彼女は、目に見えて「ヨロイ」を纏ってはいないが、その防護力は働いているらしい。
 禍津邪妄の攻撃程度なら、傷一つ、つくことはないのだろう。
 振り返り、剣を構えるが、その方にはいなかった。そして、背後から気配を感じ、身をひねって、地に転がった。自分が立っていた辺りを、邪妄が飛んでいった。
 動きがデタラメだ。というより、直線的ではない。もしやと思い、気配を探りつつ、地上に映る、飛行する禍津邪妄の「影」を見る。どうやら、円移動が基本らしい。
 また、地に転がって、動きをかわし、「影」を見る。また、飛んでくる。今度は、先読みし、剣で弾いた。
 また、「影」で、動きを探る。それを見て、気づいた。
「……そうか、さっきみたいに、『目』のひと睨みで、地上に『糸』を打ってるんだ」
 地上のどこかに見えざる「糸」を打って、「支点」を作り、その「支点」を使って、円運動を基本とした、ある種、無軌道な動きを行い、天夢を攻撃していたのだ。
 ならば。
 天夢は邪妄の動きを「影」を見て探り、予測する。そして。
「そこッ!!」
 気合いとともに、地上の一点を、切っ先でうがつ。さらに、もう一ヶ所、気合いもろとも、剣で砕いた。
 空中を飛んでいた禍津邪妄が、まるでギリギリまで張られたゴム紐で弾かれたように、直線の動きになり、八階建ての建物の、五階辺りの壁に突き刺さる。
「二つの支点があったから、不規則な動きだったのか……」
 禍津邪妄は、基本的に本能のまま動く。こんな風に「頭を使う」ような動きはしない。これはディザイアに成長する兆候かも知れない。
 ならば、早く倒さねば!
 天夢は、邪妄が刺さっている建物の壁を蹴り、垂直の壁をまるで平面であるかのように駆け上がる。そして、黄金色に輝く剣でその体を斬ろうとしたとき!
 なにかの気配が降ってきて、天夢をたたき落とした。
 背中から地に叩きつけられ、一瞬、息が止まった。
 視界の端、五メートルぐらい先に、黒い鎧武者が見えた。
「ムラ、マサ……」
 呟き、痛む体に鞭打って、起き上がる。
 全身が痛い。
『今回は、近くまで「来ていた」からな。早く来ることが出来た』
 そう言いながら、刀を抜く。おそらく、あの刀が、妖刀・村正だろう。
 ガシャガシャと、耳障りな音をさせながら、ムラマサが近づいてくる。
 だが、天夢はまだ、立ち上がることさえ出来ていない。なんとか、片膝立ちになり、剣を構えると、一メートルの間合いまで来たムラマサが、刀の柄を両手で持ち、振り仰いだ。そして、天夢めがけて、まさに振り下ろされんとしたとき!


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 2559