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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第177回   捌の十三
 その夜、天夢は冥空裏界へ行った。
 八月二十六日、日曜日の正午だった。
 とりあえず、帝都文明亭へ向かう。
 その途中で、何か異様な気配を感じた。
 そちらへ、小走りに行くと、大通りで、女性が何人か、フラフラと歩いている。意識はもうろうとしているようだが、酒に酔っているわけではないらしい。
 感覚でわかる。邪気に囚われ、今、それが外へ出ようとしているのだ。この世界には、ある呪術がかけてある。邪気や邪念が蓄積しないよう、クリアする呪術だ。だが、それは完全なものではなく、浄化しきれないものが、時折、実体化する。
 女性たちの口が開き、黒いガスのようなものが五、六メートル上に上がり、青空をバックに集まる。それが一つの形になった。
「禍津邪妄……!」
 呟く天夢の目に、長さ五メートル、太さが最大で十センチほどの、糸を通す目が開いた縫い針のような形になった邪気が映る。そして、その身体の中間あたりから、一対の白い、鳥の翼のようなものが、生えていた。
 この邪妄には、何度も遭遇している。何の邪念、あるいは欲念が形を為した物か、未だにわからない。ディザイアに進化すれば、わかるだろうが、邪気をまき散らすような、そんなことを見過ごすことは出来ない。
「目」のところに、人間の目のようなものが現れ、地上の人々をギョロリ、と睨(ね)めつける。
 人々の悲鳴が聞こえる中、勾玉が降りてきた。
 金色だ。
 鎧念を纏うと、剣の柄に、「都牟刈」を降ろした咒符を差し込む。剣身が黄金に輝き、天夢は、跳躍した。
 邪妄よりも高く飛び上がり、剣を振り下ろすも、すんでの所で逃げられた。
 着地しジャンプして、再び、剣を振るうも、かわされる。残念ながら、天夢は、というよりアタッキングメンバーの誰一人として、空中浮遊や、飛行の能力を持っていない。もしかしたら、新なら、そんな力を持っているかも、と思ったりもしたが、彼女は猿太閤対策で、しばらく大正十二年界に来ない、のようなことを言っていた。
 かつて、自分が金の勾玉でこの邪妄と会敵したときは、千紗か、紫雲英が銀だった。だから、紫雲英の結界で動きを制御できたし、千紗は問答無用の強さだから、あっという間に倒していた。銀だったときは、五の柄・建御雷之男神(たけみかづちのおのかみ)の力で雷撃を喰らわせ、金属物に引きつけさせて、動きを封じていた。
 今回は、感覚として、自分一人しかいないようだ。これまでもたまに一人しかいない、ということがあった。そんな時にも、時々だが、禍津邪妄に遭遇することがあった。
 だが、そのすべてが、地上タイプだった。だから、一人でもなんとかできた。
 今回は事情が違う。
 金の勾玉の時は、物理力の方が強化されるようで、呪術攻撃は、減衰する。だから、もう一つのスリットに他の札をさしても、直接当てるのでなければ、その効力を及ぼしにくい。
 この勾玉のシステムが、今ひとつよくわからない。というより、わかっていないらしい。


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