「だからさ、なんで、俺がお前にメシ、おごらないと、なんないの?」 浅黄の抗議を無視し、本部の駐車場で、浅黄の車のボンネットに頬杖をついて、貴織は言った。 「いいじゃん。比呂さんの方が年上だし?」 「テイボウじゃあ、お前の方が、少しばかり先輩なんだが?」 「やあねえ、女にメシたかる男って」 「それ言ったら、俺にメシたかるお前は、どうなんだ?」 「女はいいのよ」 無茶苦茶な理屈だな、と呆れ呟きながら、浅黄は言った。 「俺、カノジョがいるって、いつか言ったぞ?」 この言葉から、浅黄は、貴織が浅黄に対して、仕事仲間以上の好意を持っていることに、気づいているらしい。 そうでなくては困る、と貴織は思った。直截(ちょくさい)的ではなかったが、これまで、それとなくモーションをかけてきた。貴織としては、浅黄に、これに乗って誘いをかけてきて欲しい、と思っていたが、どうやら、彼は、女性あるいは「恋」というものに対して、深い傷を負っているらしいことを、何かの折りに知った。 だが、そう簡単に諦めるわけにはいかない。確かに、「あの事件」以来、男性を憎悪の対象にしたこともあったが、あの男だけが、特殊だったのだ、と今は、納得している。 だから。 「うそ、ね?」 浅黄が動揺したかのように、余所を見る。 「な、なんで、そう思うんだ?」 「だって、比呂さんが、女性と電話したり、メールチェック、なんてするとこ、一度も見たことないし。夜遅く出会っても、たいてい、一人か市役所の人と一緒だし? 何より、服装に代わり映えがないし、コロンや香水の香りなんて、一度も嗅いだことないから」 浅黄が呻く。 「比呂さんが、どんな『傷』、背負ってんのか、あたしは知らないけどさ。あたし、上石津でも評判の占い師なのよ? 相談、してみてよ、きっといい『答え』、見つけられると思うから」 「……答え?」 浅黄が訝しそうに貴織を見た。 頷き、貴織は言った。 「あたしと比呂さんの未来は、『LOVERS』のアップライト」 「……なんだ、それ?」 「検索したら、わかるわよ。じゃあ、さ、あたしがどんなにすごい占い師か、教えてあげるから、講師料、いただける?」 「……いくらだ?」 「そうねえ」 と、貴織は考える。 「イタリアン、って言いたいところだけど、比呂さんが行きつけの居酒屋でいいわ」 少しだけ眉間にしわを寄せたあと、浅黄は言った。 「わかった、連れてってやる」 「ホント!?」 浅黄の言葉に、貴織は自分の愛車に向かったが。 「どこ行く?」 「え? 自分の車に乗ろうと……」 「……乗れっつってんだ」 「……え?」 「だから、俺の車。……二度も言わせるな」 そう言って、浅黄はドアロックを開けた。
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