会議が終わり、散会したとき。 「あの」 と、天夢ちゃんが、僕に言った。 「救世さん、どこかで、お茶でも、飲んでいきませんか?」 上目遣いで、ちょっと頬が紅い気もする。 どうしようか、と思っていると。 「心さん! 今日、また、味見して欲しいッス! お父さん、味の改良がだいぶ進んで、自信があるって言ってるし、是非、心さんの感想が聞きたいって!」 って、紫雲英ちゃんが僕の腕に、自分の腕を絡ませてきた。 「そ、そう? え、と」 と、天夢ちゃんを見ると、なんか、沈んだ顔をしてる。 うん、ここはやっぱり……。 「ごめん、紫雲英ちゃん、僕、今日は……」 「いいじゃないスか! 来てくださいよ!」 と、僕に密着してくる。夏で薄着だから、その、胸の感触が……。 「もう、お父さん、準備してるンス! このままじゃあ、用意した食材とか、無駄になって捨てることになるンスよ? もったいないッス! それに、天夢ちゃん先輩とのデートなら、いつでもできるし!」 「いや、一人分でしょ? 誰かが食べたら……」 「心さん。お父さんは、心さんに食べて欲しいんです」 そう言われるとなあ、以前、お世話にもなったし。 僕は もう一度、天夢ちゃんを見た。 「ああ、気にしないでください、救世さん」 笑顔だけど、どこか、寂しそうだった。
で、会議室を出て、十メートルほどの廊下を歩いていると、不意に紫雲英ちゃんが言った。 「あ、忘れ物。心さん、申し訳ないけど、エントランスで待っててください」 「うん」 というわけで、僕は一足先に階段を上がり、所長室を抜けた。そこで、貴織さんが待ってた。 「ねえ、救世くん。実はさ、面白いモノ、見つけちゃったんだ、あたし」 イタズラっぽい笑顔を浮かべて、僕にA4サイズの一枚の紙を手渡した。 「なんですか、これ?」 「大正十二年界の『変質』を防ぐために、いろいろ検討されて、記録が取られてるの。その中でも、『変質させる危険性はない』っていう風に結論されたものがあるのよ」 「そんなものがあるんですか」 なるほど、いつか「大正十二年界」の変質が進むと、大震災の発生時期とか、震源が変わってしまって、魔災の種を掴みづらくなるって、聞いた覚えがある。猿太閤なんていう厄介な奴もいるし、「変質」には、これまで以上に注意しないとならない。 「で、なんで、『危険がない』って、結論されてるんですか?」 「それなんだけどね?」 と、貴織さんが困ったような笑顔になる。 「ぶっちゃけ、わからないの」
|
|