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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第173回   捌の九
 会議が終わり、散会したとき。
「あの」
 と、天夢ちゃんが、僕に言った。
「救世さん、どこかで、お茶でも、飲んでいきませんか?」
 上目遣いで、ちょっと頬が紅い気もする。
 どうしようか、と思っていると。
「心さん! 今日、また、味見して欲しいッス! お父さん、味の改良がだいぶ進んで、自信があるって言ってるし、是非、心さんの感想が聞きたいって!」
 って、紫雲英ちゃんが僕の腕に、自分の腕を絡ませてきた。
「そ、そう? え、と」
 と、天夢ちゃんを見ると、なんか、沈んだ顔をしてる。
 うん、ここはやっぱり……。
「ごめん、紫雲英ちゃん、僕、今日は……」
「いいじゃないスか! 来てくださいよ!」
 と、僕に密着してくる。夏で薄着だから、その、胸の感触が……。
「もう、お父さん、準備してるンス! このままじゃあ、用意した食材とか、無駄になって捨てることになるンスよ? もったいないッス! それに、天夢ちゃん先輩とのデートなら、いつでもできるし!」
「いや、一人分でしょ? 誰かが食べたら……」
「心さん。お父さんは、心さんに食べて欲しいんです」
 そう言われるとなあ、以前、お世話にもなったし。
 僕は もう一度、天夢ちゃんを見た。
「ああ、気にしないでください、救世さん」
 笑顔だけど、どこか、寂しそうだった。

 で、会議室を出て、十メートルほどの廊下を歩いていると、不意に紫雲英ちゃんが言った。
「あ、忘れ物。心さん、申し訳ないけど、エントランスで待っててください」
「うん」
 というわけで、僕は一足先に階段を上がり、所長室を抜けた。そこで、貴織さんが待ってた。
「ねえ、救世くん。実はさ、面白いモノ、見つけちゃったんだ、あたし」
 イタズラっぽい笑顔を浮かべて、僕にA4サイズの一枚の紙を手渡した。
「なんですか、これ?」
「大正十二年界の『変質』を防ぐために、いろいろ検討されて、記録が取られてるの。その中でも、『変質させる危険性はない』っていう風に結論されたものがあるのよ」
「そんなものがあるんですか」
 なるほど、いつか「大正十二年界」の変質が進むと、大震災の発生時期とか、震源が変わってしまって、魔災の種を掴みづらくなるって、聞いた覚えがある。猿太閤なんていう厄介な奴もいるし、「変質」には、これまで以上に注意しないとならない。
「で、なんで、『危険がない』って、結論されてるんですか?」
「それなんだけどね?」
 と、貴織さんが困ったような笑顔になる。
「ぶっちゃけ、わからないの」


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