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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第17回   壱の十五
 昼食後、浅黄さんは仕事場へ、僕は大学へ向かう事にした。
 その途中の事。
「おう、伊佐木」
 学友の伊佐木誠吉を見かけたんで、声をかけたんだが、どこか様子がおかしい。なんか、考え事してるっていうか、ぼうっとしてるっていうか。
「ああ、救世か」
 目抜き通りだから、人が多い。それでも伊佐木は人にぶつからず(ということは、注意散漫ではないらしい)、僕のところまで来た。
「伊佐木、どうした、ボーッとして?」
「ん? そう見えるか?」
「見えなきゃ、聞かないよ」
 少し考えて、伊佐木は言った。
「この間、おさわちゃんが広島から戻ってきたけど、なんか、様子がおかしいんだ」
「様子がおかしい? なんだ、それ?」
「有り体に言って」
 と、伊佐木が僕を見て、そして通りを見ながら、言った。
「いい男(ヒト)ができたらしい」
 その視線を追うと、車道を挟んだ通りに、沢子さんがいて、隣にいる男の人と楽しそうに笑い、なにかお喋りしていた。
「あれ? あの男の人……」
 遠目だからよくわからないけど、あの男の人、見たことあるような……。
 しばらくして男の人と別れた沢子さんが、道を渡って、こっちに来た。
「あら、誠吉さん、心さん」
 僕たちに気づき、沢子さんが、笑顔で会釈する。
「あ、ああ、おさわちゃん」
 明らかにぎこちない態度で、伊佐木が応える。
「え、と。今の男の人、って?」
 恐る恐るって感じで、伊佐木が問うと、沢子さんが満面の笑みで答えた。
「広島からの汽車で知り合ったんです! 合崎(ごうざき)昭夫さん、っていう、貿易会社の人!」
「え? ごうざきあきお?」
 その名前に、引っかかりがあった僕は聞いてみた。
「ねえ、それ、どういう字を書くのかな?」
「合計の合に、山偏の崎。昭は……。先年、『漢宮秋』っていう貸本が出たでしょ? アレに出てくる『王昭君』の昭の字に、夫っていう字」
「かんきゅうしゅう」とか、わけがわからなかったけど、僕はどうにもその名前が気になっていた。
 伊佐木は、別の事が気になって仕方がなかったみたいだけど。


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