その日の夜、っていっても、まだ午後七時なんで明るいから、夜って感じはないんだけど。 白倉さんの緊急動議で、緊急会議が開かれた。 「申し訳ないね、ボクの発議につき合ってもらって」 白倉さんは、ホワイトボードのところにいる。ちなみに、会議に参加しているのは、御苑生衣祭司、佐之尾主頭、面河さん、高谷さん以外の、要するに、定例会議の面々だ。 「救世くんが見た、大公妃たちが処分したという、『何か』なんだけど、チェックしてみて、わかったよ」 そう言って、白倉さんは、ホワイトボードに「三猿」と書いた。 チェック? どうやって? まあ、この人のことだから、常識外れのことが出来ても、不思議はないけど。 「『見ざる、言わざる、聞かざる』。知ってる人も多いよね?」 天夢ちゃんが頷いた。 「はい。日光東照宮の、あれ、ですよね?」 白倉さんが頷く。 「でも、あれとは、少々、異なるものだった。三猿ワンセットの像で、言わざるは鼻の穴も塞いでいたんだ」 浅黄さんが聞く。 「それが、なんだってんだ?」 板書し、白倉さんが言う。 「見猿、言わ猿、聞か猿。つまり、六根(ろっこん)の内、眼耳鼻舌、舌はこの場合、言葉、と捉えて欲しい、それが、塞がれていることになる。塞いでいる手も、使えないとすると、身も、封じられている、といえる。咒力が込められていて、ただの像じゃない。どうして、そんなものがいきなり現れたのか、よくわからないけど、それについての考察は、またにしよう。……ところで、日光東照宮に祀られているのは、徳川家康だよね。江戸幕府の創建者だ。徳川にとって、忌むべき、あるいは避けるべき武力が四つある。なんだか、わかるかい?」 白倉さんが、僕たちを見渡す。 なんだろう? ちょっとして、浅黄さんが言った。 「外国の武力、かな?」 「そうだね。鎖国、っていうのは、実は、後世になって作られた幻想だった、て言われているけど、キリスト教による思想侵略を恐れていたことは、事実だ。封建社会にとって『神の前に、人は平等』なんて説かれると、不都合極まりないからね。……ほかには?」 しばらくして、紫雲英ちゃんが挙手して、言った。 「ハイハーイ! 農民一揆ッス!」 白倉さんが頷き、「ほかは?」と聞いた。 思いついたんで、僕が言った。 「諸藩諸侯、かな? 参勤交代の制度も、諸侯の力を削ぐためだった、って、いわれてるらしいし」 今日読んだ、古い雑学本に、載ってた。ホントかどうかは知らないけど。 「うん、そうだね。じゃあ、あともう一つは?」 誰も答えない。 いや、副頭は気づいているようだ。なんだか、少し唸って、何か、考え込んでる。 しばらくおいて、白倉さんが言った。 「旧勢力の残党による、報復、あるいは巻き返し。あちこちで挙兵されると、まずいよね?」 旧勢力。それって……。 みんなも、気がついてる。でも。 「どうして、そいつの話、今、始めたンスか?」 紫雲英ちゃんが首を傾げる。 そうだ。どうして、あの武将の名前を、ここで話題にするんだろう? 白倉さんの意図が読めない。
|
|