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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第169回   捌の五
 その日の夜、っていっても、まだ午後七時なんで明るいから、夜って感じはないんだけど。
 白倉さんの緊急動議で、緊急会議が開かれた。
「申し訳ないね、ボクの発議につき合ってもらって」
 白倉さんは、ホワイトボードのところにいる。ちなみに、会議に参加しているのは、御苑生衣祭司、佐之尾主頭、面河さん、高谷さん以外の、要するに、定例会議の面々だ。
「救世くんが見た、大公妃たちが処分したという、『何か』なんだけど、チェックしてみて、わかったよ」
 そう言って、白倉さんは、ホワイトボードに「三猿」と書いた。
 チェック? どうやって?
 まあ、この人のことだから、常識外れのことが出来ても、不思議はないけど。
「『見ざる、言わざる、聞かざる』。知ってる人も多いよね?」
 天夢ちゃんが頷いた。
「はい。日光東照宮の、あれ、ですよね?」
 白倉さんが頷く。
「でも、あれとは、少々、異なるものだった。三猿ワンセットの像で、言わざるは鼻の穴も塞いでいたんだ」
 浅黄さんが聞く。
「それが、なんだってんだ?」
 板書し、白倉さんが言う。
「見猿、言わ猿、聞か猿。つまり、六根(ろっこん)の内、眼耳鼻舌、舌はこの場合、言葉、と捉えて欲しい、それが、塞がれていることになる。塞いでいる手も、使えないとすると、身も、封じられている、といえる。咒力が込められていて、ただの像じゃない。どうして、そんなものがいきなり現れたのか、よくわからないけど、それについての考察は、またにしよう。……ところで、日光東照宮に祀られているのは、徳川家康だよね。江戸幕府の創建者だ。徳川にとって、忌むべき、あるいは避けるべき武力が四つある。なんだか、わかるかい?」
 白倉さんが、僕たちを見渡す。
 なんだろう?
 ちょっとして、浅黄さんが言った。
「外国の武力、かな?」
「そうだね。鎖国、っていうのは、実は、後世になって作られた幻想だった、て言われているけど、キリスト教による思想侵略を恐れていたことは、事実だ。封建社会にとって『神の前に、人は平等』なんて説かれると、不都合極まりないからね。……ほかには?」
 しばらくして、紫雲英ちゃんが挙手して、言った。
「ハイハーイ! 農民一揆ッス!」
 白倉さんが頷き、「ほかは?」と聞いた。
 思いついたんで、僕が言った。
「諸藩諸侯、かな? 参勤交代の制度も、諸侯の力を削ぐためだった、って、いわれてるらしいし」
 今日読んだ、古い雑学本に、載ってた。ホントかどうかは知らないけど。
「うん、そうだね。じゃあ、あともう一つは?」
 誰も答えない。
 いや、副頭は気づいているようだ。なんだか、少し唸って、何か、考え込んでる。
 しばらくおいて、白倉さんが言った。
「旧勢力の残党による、報復、あるいは巻き返し。あちこちで挙兵されると、まずいよね?」
 旧勢力。それって……。
 みんなも、気がついてる。でも。
「どうして、そいつの話、今、始めたンスか?」
 紫雲英ちゃんが首を傾げる。
 そうだ。どうして、あの武将の名前を、ここで話題にするんだろう? 白倉さんの意図が読めない。


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