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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第168回   捌の四
 平田古書は、中央区にあるけど、どちらかというと、奥まったところにある。裏通りっていうほどじゃないけど、それでも、交通量は目抜き通りには、比べるべくもない。
 つまり、平日の日中はあまりお客様の姿はないってこと。なので、僕は、ここで、いろいろと本を読ませてもらってる。大体は買い取った古書を店頭の書架に並べる前に、「チェック」と称して行う行為だけど。
 こういうことをするのは、一つには、大正十二年界に変な影響を与えないために、知識を仕入れておくため。もう一つは……。
 趣味、かな?
「救世、これ、チェックしといてくれ」
 今日は、面河さんも、ここにいる。
「チェック?」
 珍しいな、面河さんがこういうこと言うなんて。面河さんなら、買い取りの時点でチェックを終えてるはずだけど?
「ああ。念のため、な」
 ますます変だ。
 僕は、その本を受け取った。
 学術書とか、難しそうな本ばっかり。
「量子力学……。なんか、難しそうな本ですね」
「だろ?」
 と、面河さんは苦笑いを浮かべる。
「一応、買い取るには買い取ったが、売れるかどうか微妙でな。とりあえず、お前に、これ読んで、解説でも作ってもらえないかと思ってな」
「……なるほど。これ、何冊か、新品ぽいですよね?」
 汚れてないし、折れクセとかめくりクセ、読むときについてしまう、黒ずみ汚れなんかが、ついてない。そういう本がないわけじゃない。時々だけど、美品状態にしようとして、一回読んだだけ、しかもものすごく丁寧に読んでいるケースもある。
「昨日、持ってきたお客様の話じゃあ,『難しくて、手に負えなかった』んだそうだ」
「そういう本を、僕に読めと?」
 いい迷惑だ。
「それはそうと、救世。お前、江崎さんから、なんか頼まれごと、したんだろ? 気をつけろよ? あの人、自分の感覚でもの言うクセがある。自分なら出来るって思って、たまに無茶ぶりすることがあるからなあ」
「はい。今、それ実感してます」
 僕の言葉に、面河さんが苦笑した。


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