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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第164回   漆の二十一
「真鎧纏装(シンガイテンソウ)!」
 体中に氣と光と力が満ちあふれる。
 そして、僕は、新たな鎧念を纏(まと)った。前のものと、デザイン的には大きく変わらない。ただ、ナックルダスターの、左手の甲には、直径三センチほどの、サークルが、右手の甲には、やっぱり三センチぐらいの、勾玉をはめ込むような鋳型(いがた)がある。直感だけど、サークルの方は「八咫鏡(やたのかがみ)」、鋳型の方は「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」っていう名前だって、わかった。
 根拠も何もないけど。
 確実に奴を倒せる自信がある。
 僕は、ダッシュをかけた。
 ガウルも右腕を伸ばす。
 でも、僕はそれを左手で捉え、制動をかけ、右の掌底を、下から奴の右腕めがけて、放つ。そのまま握り、身をひねり、ガウルの腕を空高く放るようにして、半円を描き、気合いもろとも地に叩きつける。
 ガウルが呻きながら起き上がる。でも、右腕は僕の掌底でへし折られ、使い物にならないらしく、左手で押さえている。
 逃げることを選択したらしく、僕に背を向けて駆け出した。その時、懐に、「ある気配」を感じて、取り出した。それは、クリスタルの円盤。大きさは一寸……三センチほどだ。一瞬で、天夢ちゃんが使う「御札」と同じものだってわかったんで、僕は思い浮かんだままの咒を唱えた。
「四(よん)の鏡、風! 謹請、志那津比古(しなつひこ)の神!」
 クリスタルの円盤が、クリアブルーに輝く。それを左手甲のサークルにはめ込むと、体に「風」の力が溢れる。僕は、それを解放し、ガウルの周囲に放った。左手から生まれた「風」を操り、風の渦を起こして、奴をこちら側に引き寄せる。ガウルが夜空を舞い、こっちに飛んでくるのが見えた。
 次に僕が懐から出したのは、クリスタルの勾玉。大きさは一寸ほど。これも天夢ちゃんが使う「御札」と同じものだ。僕は思い浮かぶまま、咒を唱える。
「三の玉、火! 謹請(きんじょう)、迦具土(かぐつち)の神!」
 クリアレッドの光を放つ勾玉を、右手の甲の「型」にセットする。
 右手に、火の力が満ちた。
 風に翻弄されて、まったく身体の制御ができないガウルが、目の前に降ってきた。僕は、気合いもろとも、徹甲拳(てっこうけん)を放つ。
 轟音とともに、ガウルが、真っ赤な火の塊となって、爆散した。
 何事か、と、建物の窓が開いたり、人々が集まり始める中、僕と天夢ちゃんは、そこを去ることにした。
 っていうか、僕はどうやら、人に見られても、ある程度、問題ないらしいけど、天夢ちゃんは、もろに女学生さんだし。人目についたら、巻き戻るまでの間、下手をしたら、彼女は好奇の対象になりかねない。
 だから、失礼とは思ったけど。
「天夢ちゃん、僕にしがみついて!」
「え?」
 彼女の了承を得ずに、僕は彼女をお姫様抱っこして、そこから駆け出した。


(漆「勾玉、進化の刻」・了)


あとがき:「漆の十」のところで沢子がアジっていた「十年前には、三軒に二軒が職業婦人だったのに、今は、三軒に一軒」の部分。ある資料によると、明治末期の、女性の有業率は約七十パーセント、十年後には、約四十四パーセント、だったんだそうです。


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