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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第160回   漆の十七
 八月二十三日、木曜日、夜更け。
 冥空で「ダーシー」と名前が変わっている大石節雄(おおいし せつお)は、「篠谷屋」という骨董屋に忍び込み、ついに目的のものを手に入れた。
「タイコウヒ様の仰った通りだ。『ここにある』と、何度も、信じながら、骨董屋に忍び込んで探し続けていれば、必ず見つけることが出来る。例え、二度も三度も侵入した、同じ店であっても。『ここ』は、そういう世界なのだ、と」
 しばらく前、謎の女が、自分の前に現れた。黒い着物を着崩した、短髪の美しい女。だが、その美しさは、決して近づいてはならないもののように感じた。
 にもかかわらず、なぜか、その女の前から逃げることが出来ない。それは、金縛りとは違う。
 魅入られた。
 それに近いかも知れない。
 女は「タイコウヒ」と名乗り、大石に、「あるもの」を盗むように言った。そして、それがうまくいけば、「現実」でも、侵入盗が百パーセント、成功するのだ、という。
 七月の半ば、金に困り、昔、繋がりのあったある男から、津島という男の部屋に忍び込み、パソコンのデータを消せ、だの、ノートパソコンがあったら、盗んでこい、だの、いろいろと依頼された。
 だが、その男からいろいろ文句を言われた。いわく「なぜ、パソコンデータ削除ツールを、部屋に置いてこなかった?」「なぜ、データディスクを、まとめて持って来なかった?」「なぜ、ノートパソコンを探さなかった?」。
 一つ目は、ミスだったことは、認める。だが、二つ目については、自分なりに考えるところはある。もしディスク類がごっそり消えていたら、警察は窃盗を疑い、捜査が始まる。そこから、自分に繋がり、さらにその男にたどりつく怖れがある、と言ったのだが、わかってもらえなかった。
 三つ目は「見つかるまで探せ」という、無茶を言われた。
 なんにせよ、報酬は雀の涙。どうしよう、と思っていたら、タイコウヒと名乗る女に出会い、現実とは違う「幽界」とかいう場所での盗みを命じられた。
 眠りにつくことで行くことができるので、夢かと思ったが、妙にリアルで、おまけに、そこで負った傷が、そのままではないが、目を覚ましてからも、体に残っていた。
 大石は、左手の甲を見る。ある骨董屋に忍び込んだ折、そこにあった刀を見て、鞘から抜き、また、鞘に戻そうとして、その際、うっかりして切っ先で左手の甲に傷をつけてしまった。朝、目覚めたら、それに似た傷……古傷ぽくなっていたが……があったのだ。
 盗んだものを見て、大石は満足げに笑った。これで、自分は、現実でも百パーセント、盗みが成功する。大金や金目の物を、アシがつかずにうまく盗めれば、金にも困らない。
 これを早く、届けよう。
 大石は、そこを飛び出し、夜の町を駆け出した。


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