あのあと、どうにか立ち直ることが出来た沢子さんに、事情とか、聞いてみた。沢子さん、あの男を「ダーシー」って呼んでたからね。 「あの人、ダーシーさんって、いうそうです。漢字で大きい石、て書いて、『大石』さん、ていうそうです」 「だーしー? もしかして、大陸の人?」 日本人の名前が、組み変わってるとか、読み方が変わってる可能性もあるけど。どう読み替えたって「だーしー」になるってないと思うし。だったら、アナグラムだろうけど、念のため、聞いてみた。 「さあ? でも、日本語はお上手ですし。……あの人、地方から来た、骨董屋さんで、自分のお店で扱うのに、いい出物はないか、こちらに探しに来てるって、薫子さんの、お話だったんですけど。あんな、怪物だったなんて」 さっきのことを思い出したのか、沢子さんは、ちょっと体を震わせる 大石、か。 まさか、また、帝星建設に関係してたりして? いや、いくらなんでも、それはないか。
気がつくと、自室。大正十二年界での下宿の部屋ではなく、天夢の、顕空での自室だ。 どうやら、気を失っている間に、帰ってきたらしい。 心は無事だったろうか? とにかく、咄嗟に体が動いたので、自分自身、防御態勢がとれなかったし、心のことを確認することも出来なかった。 彼が無事ならば、それでいい。 そう思ったとき、ふと、天夢の心に自問が芽生えた。 自分は、心とともに、幸せになりたいのだろうか? それとも。 何かあった時、彼の代わりに死にたいのだろうか?
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