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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第157回   漆の十四
「救世くん!」
 勾玉が消えたとき、男性の声がした。
 その方を見ると、着物姿で、眼鏡をかけた男性。
「結城さん」
 テイボウメンバーの一人、結城亜紋さんだ。結城さんは、アタッキングメンバーじゃない。でも、ここ大正十二年界に来ることが出来る。ここでは、「診療所の先生」なんだそうだ。
 ただ、その診療所は杉並の方にあって、しかもアタッキングメンバーじゃないこともあって、僕たちと、顔をあわせることは、ほとんどないそうだし、僕は、こっちで結城さんに会ったことは、実は一度もない。
「大丈夫かい?」
 小走りで、こちらに近づく。
「ええ、なんとか。結城さん、どうして、ここに?」
「え? ……ああ、それについては、あとで説明するよ。……それより、神室さんは大丈夫かい?」
「そうです! 天夢ちゃん、僕をかばって! 結城さん、彼女を……!」
 頷き、結城さんはキーワードみたいなものを口にした。
「Conference(カンファレンス)」
 その言葉と同時に、、結城さんの両手の中に、水晶で出来たタブレットのようなものが現れた。
 僕が不思議そうな顔をしていたせいだろう、結城さんが僕を見て言った。
「君たち護世士の、護世具のようなものだと思ってください」
 僕は、ゆっくりとしゃがみ、天夢ちゃんを横たえる(ただし、頭は、僕の膝の上だけど)。
 結城さんはそのタブレットを、天夢ちゃんの上にかざし、その体をなぞるように動かした。すると、タブレットの上に、文字で出来た人の形のようなものが四つぐらい現れ、何か、動いている。
 結城さんが言った。
「僕には戦う力はありません。代わりに人を癒やす力を与えられています。これは……。例えるなら、外科・内科・精神科・婦人科の四人の先生が、診断して、相談している、と思ってください」
「は、はあ……」
 さっぱりわかんないけど、とりあえず、天夢ちゃんを診てくれている、ってことだろうな。
 でも、今、結城さんのところに勾玉は現れなかったな?
 しばらくして、結城さんが頷いた。
「大丈夫。脳血管障害など、重篤なものは見られません。脳震盪です。ですが、意識消失を伴っていますので」
 そう言うと、結城さんは次のキーワードを唱えた。
「Tranquilize(トランキライズ)」
 結城さんの指先から、淡い光が現れ、その光が天夢ちゃんを包む。
「顕空では、最低一ヶ月は安静や加療が必要ですが、ここなら脳震盪も一回の治療で大丈夫です。ここ冥空では、ややこしい病気や、難しい病気、長患いでない場合は、一回から三回程度の治療で治せます。ここが、ある意味で『原因の世界』だからか、ここで護世士の誰かの、病気や怪我を治療した場合の治癒率は、とても高いんですよ」
 と、結城さんは笑顔で言う。
「へえ。すごいですね、勾玉なしで、そんな力が使えるなんて」
「君もすごかったじゃないですか」
「え?」


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