「神室さん、これから、劇場で観劇など、いかが?」 女学校を出て、しばらくすると、背後から学友・梅野二枝(うめの ふたえ)から声をかけられた。 「いいえ、わたくし、これから、所用がございまして」 天夢がそう応えると。 「そうですか。それでは、ご機嫌よう」 そう言って一礼すると、二枝は、待っていたらしき二人の女学生と連れだって、歩いて行った。 今日は、冥空では八月十八日、土曜日、顕空では七月三十一日の、午前十一時五十分頃だったと思う。 この大正十二年界では、夏休みといった、長期休暇は存在しない。だが、毎日、学校などの教育施設が開いているかというと、そういうわけでもない。非常にややこしく変則的なものになってしまっており、「一ヶ月あたり、休みは十日〜十四日」のような状態になっているようだ。 帝浄連時代、あるメンバーが、冥空での旧文部省の会議の席で、うっかり「夏休みというものは、七日程度」のようなことを言ってしまったらしい。 「あたしのおじいちゃん、若い頃、確か旧文部省に勤めてた、って言ってたなあ」 ……まさか、と思うが。 しばらく道を歩いていて、ふとそんなことを考えていると、書店が見えてきた。 ここは、缶田(かんだ)というところになる。顕空現界では、千代田区に当たるところらしい。だが、地理などはいろいろと変化しているそうなので、完全には対応しないという。 書店の前に、一人の男性の姿があった。 その人影をみとめ、天夢は小走りになった。 「救世さん!」
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