七月三十一日、夜十時。 仕事から帰ってきた奥坂は、津島からの手紙、その「二枚目」をまた、読んでいた。
同梱してあるノートパソコンには、土原と帝星建設の癒着の証拠が ある。 俺が癒着について調べていたことが、土原に知られていたらしい。 妙な連中が俺を探っている気配がある。もしかすると、何らかの、 脅しがあるかも知れない。 だが、それに屈したら、俺はジャーナリストじゃなくなる。 しかし、万が一を考え、これをお前に託したい。 いきなり出した覚えのない荷物が返ってきて、さぞ、驚いただろう。 やむを得なかったと思ってくれ。 もしも俺に何かあったら、一枚目とともに警察へ届けて欲しい。 実を言うとこのパソコンのデータだけでは意味が無い。奴らの手に 手紙の一枚目やパソコンが渡った時のために、いろいろ暗号を仕掛 けてある。 だが、警察ならそれを解いてくれると思う。 お前にこんなことを押しつけるのを、申し訳ないと、思っている。 だが、お前なら、奴らもノーマークのはず。 くれぐれも頼む。
手紙にもあるように、確かに驚いた。 郵便受けの中に、宅配業者からの連絡票があり、奥坂の出した日付指定の荷物が、宛先不明なので、「返す」旨のことがあったのだ。 荷物など、出した覚えはない。だから、業者へ行き、その荷物を確認した。 差出人は確かに奥坂だったが、出した覚えなどないし、筆跡も違う。一瞬、拒否をしようと思ったが、宛先を見て、妙なものを感じた。 津島行延宛だったのだが、住所がまるで違っていたのだ。おまけに、配達指定日は七月二十五日。奥坂が出張から帰ってくる三日前。そして、津島には、出張のことを報せていた。 何かある。 そう思い、持ち帰って、開封してみた。 手紙と、ノートパソコンが一台、入っていた。 手紙の内容から判断して、県議会議員・土原満武(つちはら みつたけ)の癒着の証拠、正確には、それに繋がるものがあるのだろう。 興味を覚え、中を開いてみた。 幸い、パソコンにはパスワードの類いは設定されていなかった。警察に持っていって欲しい、ということだから、そのような設定は、解除したのだろう。「まず、パスワードの解析から」といった、まだるっこしいことはしていられない、ということか。それだけの危機感を感じるほどの、重大な何か、ということだ。 ひょっとしたら、金儲けの種になるかも? そう思った。 津島の書いている通り、土原議員から見れば、奥坂のことなど、まったくのノーマークだ。だから、うまく立ち回れば、相手の射程圏外から、金を強請り取ることも、不可能ではない。 一枚目の「暗号」についても、その不自然さから、すぐにわかった。 だが、津島個人の貸金庫を、鍵を持っているわけでもなく、また、赤の他人の奥坂に、どうにかできるわけがない。警察なら、その権限で、捜査できる。そういうことなのだろう。 また、パソコンに入っていた「証拠」。開いてみたが、スマホか何かで撮影したらしい、一分程度の動画だった。どうやら、中埜石(なかのいわ)市内の、どこかにある、民家らしいものが映っているだけのものだった。 わけがわからない。 もしかしたら、貸金庫にある「何か」と、この映像を組み合わせたら、警察にはわかる「もの」が出てくるのかも知れないが。 未練があった。 だから、手紙にノンブルが振られていないことを利用し、二枚目を抜いて、警察には提出した。手紙にある通り、一枚目だけを出せばよかったが、「手紙」なら、結語に相当する部分がないと、不自然かと思い、三枚目も、ともに出した。 可能な限り、この映像に取り組んでみよう。 そう思い、奥坂はネットのストリートビューと、突き合わせ始めた。
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