会議が終わったのは、午後五時四十五分。本当に簡単な連絡だけだ。先週の土曜日も、「大正十二年界では、そろそろ『月末』なので、注意しろ」みたいなこと、言われただけだったし。 「救世さん!」 建物を出たところで、天夢ちゃんから声がかかった。 「よかったら、これから、喫茶店で、お茶でもしませんか!?」 笑顔で、そんな事を言う。 彼女みたいな美少女からお誘いを受けるのは嬉しいけど、シングル歴と実年齢が同じである身としては、どうしても疑念が出てきてしまう。なんか裏があるんじゃ、って。 もちろん、テイボウのメンバーだから、そんな邪(よこしま)な人間は、そもそもここにいないはず。でもやっぱりねえ。 まあ、メンバーとしてのコミュニケーションなんだろう。僕がOKの返事をしようとしたとき。 「心さん、これから、晩メシ、どッスか?」 紫雲英ちゃんが笑顔で、近くに来た。 すると。 「あ、あたし、帰りますね」 微妙な笑顔を浮かべて、天夢ちゃんが駆け出した。 「あ、天夢ちゃん!」 声をかけたけど、彼女はそのまま、駆けて行った。 「どうしたんスか?」 「え? あ、いや、なんでも」 なんか、ものすごく悪いコトした気分になった。 「じゃあ、行きましょうよ、晩メシ! ここからバスで十分ぐらい行ったところ……安立(あんりゅう)区に、新しい中華屋が出来たンス!」 「……もしかして、『敵情視察』だったりしない?」 「心さん、カンがいいッスねえ」 と、感心したように紫雲英ちゃんが言う。 「で、僕がオゴる、と」 笑顔で頷いて、紫雲英ちゃんは言った。 「一つでも多くのメニューをチェックするには、軍資金が足りないンスよ!」 「家からは出ないの?」 と、言いそうになって、やめた。家を挙げて余所の店の味見をするって、有り得ないから。 「……まあ、いいよ。でも、僕もそんなにお金があるわけじゃないから」 「大丈夫ッスよ。とりあえず今日は、ラーメンとチャーハンと天津飯と餃子を、チェックしたいんで、三千円もあれば」 「『痛い』って、それは」 僕がそう言うと、紫雲英ちゃんが「ヨロシクっす!」と、Vサインを出した。
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