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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第149回   漆の六
「まあ、まずは、何にせよ、こいつに会うのが先か」
 いずれにせよ、帝星建設の「幹山」なる人物に会う必要がある。津島が七月十二日、水曜日に上石津市に会いに行った人物、それが、この「幹山」だった可能性が高い。津島の手紙には、「また、会う」のようなことが書かれていたが、あの部分は、「上石津銀行、貸金庫」へ導くための、いわばブラフと考えた方がいい。
 そうなると、事件が報道されて、すでに二週間が経つのにもかかわらず、幹山がどこにも出頭していないのは、どういうわけか?
「幹山」が津島を殺害したのではないとしても、殺人事件だ、「会う約束があった」の一言ぐらい、所轄署に伝えに来てもいいはず。
 単純に考えて、自分と会ったせいで、津島が殺されたと考え、自分も殺されるのでは、と恐れている可能性もあるが、他にも理由があるのだろうか、と、勘ぐりたくもなる。
 この辺り、佐之尾も職業病にかかっている、と苦笑が浮かぶのを禁じ得ない。
 何にせよ、本人に会えば、わかることだ。
 そう思っていたら、受話器を電話機に置いた片岡が言った。誰かと電話で会話していたらしい。
「帝星建設の幹山と連絡が取れました」
「そうか」
 どうやら、帝星建設に電話をかけたか、向こうからかかってきたらしい。
「七月十二日の、午前九時、確かに津島と会って、三十分ほど話をしたそうです」
「なるほど。で、そのあとは?」
「詳しいことは、直接、話したいそうです。……内容が内容ですから」
 どうやら、土原議員と、帝星建設との癒着に関する話なのは、間違いないらしい。もし、社内の誰かに知られたら、報復は免れない。だから、直接、警察で話をしたいのだろう。
「幹山の希望日時等は……」
 片岡は、幹山との会話内容を復唱し始めた。
 それを聞きながら、佐之尾は思っていた。
 津島の遺留品、マンションの部屋、及び、自家用車のどこからも、津島のスマホが見つかっていない。おそらく、犯人が持ち去ったのだろう。
 ということは、そのスマホにも重要なデータがあったということ。
 手紙からわかるように、あんな暗号を残すほどの人間だ。きっと、データの保持も、複数、行っているはず。
 もしかすると、データを消されたパソコンや、消えたデータディスク、所在不明のノートパソコンに、その「証拠」となるデータがあった可能性もあるが。
 幹山が、その「証拠」の「オリジナル」あるいは「コピー」でも、津島の判断で持たされていたら、それで、すべて解決だ。


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