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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第148回   漆の五

 実は、今回のことについては記すかどうか悩んだのだが。
先日、私の家に、ある人物がやってきた(こういう日記でも、さすがに名前は控えたい。私にも、そのぐらいの良識はある)。その人物は、ある議員の不正について、私に話がしたいということだった。
 あの人とは違う人だ。その人物が、その情報を提供する代わりに出してきた交換条件は、私にも対応可能なものだ。私は探りを入れるつもりで、その人物から、情報の一端を聞いてみた。もちろん、相手の言葉に充分,気をつけながら。
 私が尋ねると、その人物は、おもむろに団扇を出してきた。訳がわからない。だが、その人物によると、その団扇が鍵になっているという。どうやら、ストレートには、話しづらいらしい。私にその謎を解け、というのだ。
 その人物の真意がわからない。その日は、私は羽田空港へ行かねばならなかったので、団扇を預かるに留めた。
 今度、例の取引で、フランスへ行く。そういえば、あの鉢植えの花、元気がない。根腐れを起こしているのかも知れない。
 あと、しばらく前から気になっていることがある。本棚の裏から異音がするのだ。
 今度、チェックしてみよう。


 どうやら、土原議員の癒着疑惑に関する何らかの証拠として、「団扇」が関係ある、ということが書いてあるらしいが。
「団扇。そんなもん、なかったんだよなあ……」
 日記のコピーを見ながら、佐之尾は呟く。
 津島の部屋については、何者かが侵入したらしいことがわかっている。津島の部屋を捜索した結果、侵入の痕跡が隠蔽してあった。データディスク等を収納していたラックの中は、ある程度、埃が薄く積もっていたが、一部、埃が積もっていない、綺麗な箇所があった。まるで「そこにはディスクがあったので、埃が積もっていなかった。今はそのディスクが抜かれているので、埃の積もっていないところが露出している」かのようだ。だとすると、そこにあった、ディスクは、どこにあるのか。そして、盗むなら、なぜ、ディスク全てを持ち去らなかったのか。
 また、デスクトップのパソコンは、データ削除されていた、どうやら、専用ツールを使ったらしいが、そのツールが部屋から見つかっていない。まるで「何者かが、ツールを持ちこんでパソコンのデータを削除し、そのツールを持ち帰った」かのようだ。
 さらに、津島はノートパソコンを一台、所有していたらしいが、その所在がわからない。
 津島の御遺体が、いつ頃から発見現場にあったのかはわからないが、死亡したおおよその時刻は、前日、十三日の午後四時から六時頃だということがわかっている。彼から鍵を奪い、合い鍵を作って戻すのに、充分な時間だ。一応、津島の部屋の合い鍵を作らせた人物については「サングラスをかけて、ヒゲを生やし、左の頬に、大きな火傷のある、厚着の太った男」ということがわかっているが、その火傷のインパクトのせいで、その他の特徴がかすんでしまい、よくわからない。合い鍵を作った業者も、ジロジロ見ては失礼だと思ったそうで、正直、似顔絵を作る段階でさえない。
 目立つ変装をして、逆に特定のところに目を向けさせ、全体の印象を薄くさせているようだ。
「計画性がありながら、侵入の隠蔽が杜撰。この辺りから、崩せるか……」
 合い鍵を作るときには、火傷などの印象だけが残るようにしながら、明らかに部屋に侵入したことがわかる、隠蔽の痕跡。どうやら、合い鍵を作った人物と、侵入盗は別人と考えた方がいい。
 ちなみに、この紙切れについては、警察が「一番乗り」だった。


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