回想から帰り、デスクで、佐之尾は、手紙の写しを見る。 不審なところだらけの手紙。というより、不審点だけで出来ている、ある種、異様なシロモノだった。 「怪しい臭いしか、しねえなあ、こいつ」 まず、「RO110」の部分。これはおそらく「令和〇年」のことだろう。何らかのテンプレートを、そのまま呼び出して、これを書いたものと思われるが、だとしたら、なぜ、〇年のところを「五年」に直していないのか? ある種の職業病というものがあり、こういう『記事発信』をする者は、そこに注意が向くはずではないか? 「110」というのも、わからない。「一月十日」だとすると、日付の辻褄が合わない。もし、以前、このテンプレートを使った文書を、そのまま、利用したとしたら、ますますおかしい。津島が、そこに気づかないわけはない。 そのあとにある「FrBPP」も、わからない。何を意味するか、特定する材料がない。 もしかすると、一月十日に「FrBPP」に象徴される「何か」があるのかも知れないが、過去だとすると、おそらく癒着を知る前だろうし、未来だとすると、確認のしようがない。現時点では、「わからない」としか、言いようがない。 極めつきは、最後の「しつこいようだが、本当に頼む」の一文だ。「しつこいようだが」ということは、前にもなんらかの要請をしたことを匂わせる。だが、一枚目には、そんな要請をしたようなところはない。この手紙ではなく、以前の、それこそ口頭ででも依頼したことかも知れないが、それなら「あのこと」や、「あの時に頼んだこと」など、何を頼むのか、特定できるキーワードがあるはず。 となると。 「あの奥坂って野郎、なんか、隠してやがんなあ……」 ただ、この手紙には、不自然なところ……。……いや、すでにわかっている、ある「仕掛け」がある。遠回しだが、「銀色のあれ」に関する部分だ。 この部分、正確には、この単語を含むブロックには、見た当初から強烈な違和感があった。「覚悟」を平仮名で「かくご」と書いたり、「しかたがない」と平仮名で書いた後に、「仕方が無い」と、漢字で書いたり。文筆に携わる者らしくない。何らかの意味があるべきだろう。 そう思って、チェックしてみたら、あっさりとわかった。左端の文字だけを拾うと、「上石津銀こうかし金こ」=「上石津銀行、貸金庫」という言葉が出てきたのだ。そこで、上石津銀行の貸金庫を、調べてみたが、中には、ボールペンによる手書きの、日記らしい紙切れがあるだけだった。
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