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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第138回   陸の二十
 ディザイアは消滅したが、まだ、異様な気配がある。それは、あのムラマサとかいう、鎧武者のものではない。
 新は、ほとんど直感的に、大弓で、飛んできた気配を受ける。
 それは、朱色と金色で構成された棍を持った、孫悟空。魔修羅大公だった。
『ほう? 今の一撃を受けたか、小娘』
 棍を押し込みながら、魔修羅大公が、ニヤリとする。
 怪力だった。このままでは押し負ける。そう思った新は、咒を放つ。
「天地に十字あり!」
 新を中心とした八方位、そして足もとに「臨兵闘者皆陣列前行」の九字、そして直上に「力」の文字が現れる。大弓から強大な氣が炸裂し、魔修羅大公をはじき飛ばす。
 素早く弓を太刀に切り替え、次なる咒を唱えて、新は斬りかかった。
「仇災(あだわざ)を、斬りて屠(ほふ)りぬ、天之叢雲(あめのむらくも)!」
 大光世から、黄金の光が迸る。その一閃を受けようと、魔修羅大公は棍をかざしたが、それをたやすく斬ると、大光世は、魔修羅大公を両断した……かに見えた。
 どうやら、すんでのところで、跳びのいたらしい。間合いを取り、魔修羅大公は、二つに切れた棍を手に、再び、踊りかかってくる。それを新は、再び、大光世で受ける。その時、奇妙な感覚があった。それを言う前に、魔修羅大公が言った。
『ほう。その太刀。懐かしい「ニオイ」がするな』
「この太刀を、知ってるのかい?」
『……さあな。知っているような気がするだけだ』
 そう言って、魔修羅大公は、ニヤリとする。
 その言葉と物言いに、新は、感ずるものがあったが、まずは、自分が先刻、感じたことを言うことにした。
「キミ、ディザイアじゃないね?」
『なんだ、それは?』
「顕空の人間じゃないってことさ!」
 その言葉に、魔修羅大公は、一瞬、きょとんとなったが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。鬼神相と相まって、それは、凄惨なものだった。
『面白い。小娘、貴様とはいずれ決着をつけねばなるまいなあ』
 そう言って、魔修羅大公はバックステップを踏んだ。そして。
『ムラマサ! 引くぞ』
 魔修羅大公の傍に、どこかから跳んできたムラマサが、跪く。そして、二つの姿は、かすむように消えていった。
「……今のところは、活動時間に限界があるってことか……」
 呟いた新は、おぼろげにも、魔修羅大公の正体に、見当をつけていた。


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