新は、ディザイアを見る。 ディザイアは、何をするでもなく、宙に浮いている。まるで、「ようやく想い人と、一つになれる」ことを喜んでいるかのように、甲高い声で、さえずっていた。 心が痛まない、と言ったら嘘になる。だが、このディザイアがやっていることは、心中のすすめ。このディザイアの元になった人間が、どういう境遇にあるのかは知らない。もしかしたら、結ばれたくても結ばれない、結ばれるには、もはや、ともに死を選ぶほかない。そんな状態かも知れない。でも。 「その価値観を、ほかの人に押しつけるのは、良くないと思うよ?」 呟き、新は、太刀……大光世(だいこうせい)の柄、正確には、柄を覆っている「殻(から)」を抜く。 まさか、早くも、スペックアップの力を、試すことになるとは思わなかった。 その殻を、左の腰……大光世の鞘の下に当てると、まるでフックでもあるかのように、殻は腰にセットされた。 柄頭(つかがしら)を、右の拳、小指側で、軽く叩くと、金属音がして、刀が少し「展開」する。 柄頭の先を起点にして、百八十度、太刀を展開(ひら)く。切っ先五寸ほどは、片側に残り、開いたその形は、まさに大弓。 それを、構え、念で弦(つる)を出現させると、新は咒を唱えた。 「天地(あめつち)八方、斬り伏せ、放つ。天地(てんち)に十字あり」 左腰の殻から光が現れ、光り輝く矢が出現する。その矢を抜き、弦につがえると、気合いとともに、放った。 矢は一直線に伸び、ディザイアを貫いた。 悲鳴すら上げることなく、ディザイアは消滅した。
千紗が応戦しているムラマサは、あくまで千紗の感覚だが。 「浅黄の言う通り、こいつは、刀に『意志』があるかもな……」 示現流らしく、気合いとともに、ひたすら刀を撃ち込んでくるムラマサは、どこか、刀の「意志」が発動するままに任せているように、見えるところがある。 ひょっとすると、刀の「意志」が、ムラマサの体を操っているのではないか? あるいは。 「ムラマサの意志に対して、刀が力を貸している、のか?」 よくわからないが、刀と一組で「ムラマサ」のようだ。 それは、あとで、検討しよう。 千紗は木刀に「氣」を通す。刀身から旋風が起こり、ムラマサを吹き飛ばす。 銀の勾玉の時は、物理的な攻撃より、咒力的な攻撃の方が強化される。これまで見てきて、白倉新は、そんな法則には左右されていないようだが、自分たちは、その法則に支配されている。 「どこまで、規格外なんだ、アイツは……」 ディザイアが消滅する気配を感じながら、千紗は「風」をまとわせた木刀を構える。 ムラマサの構えが変わった。おそらく新陰流だろう。
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