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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第136回   陸の十八
 一、二分は走り回っただろうか。
 僕たちが「そこ」に到着すると、そこには。
 二つの首を持った、巨大な鳥が、高さ十メートルぐらいのところで、宙に浮いていた。
 裏町っていう感じのところだけど、無人じゃない。だから、逃げる人たちや、腰を抜かしている人たちが、悲鳴を上げていて、あたりは騒然となっている。
 天夢ちゃんが呟いた。
「比翼(ひよく)の鳥……」
 なんか、その声には、不思議な感情っていうか、感慨みたいなものがあったようだけど、僕の気のせいかもしれない。
 それを見ながら、千宝寺さんが言った。
「どういう字を書くのかわからんが、『なおい しげ』と名乗る、妙な女売薬がいるそうだ。飲めば、想い人とともに、あの世で結ばれる、心中の薬。お互い、想い合いながらも、『家』の事情で結ばれない男女、特に女性の間で、評判らしい。その薬による心中は、すでに三十件に上るらしい」
 そうか。大正時代って、いろんな文化が花開いて、自由な雰囲気があるように思ったけど、案外、いろんな束縛の強い時代だったのかも知れない。
 咒符が光を放つのを、僕は確認した。ディザイアだ。でも。
 あの、ディザイア、何かをしようとする様子はない。
 なんていうか。
 二人で一つの翼を持つことに、ただ、喜びを感じているように見える。
 その時、勾玉が現れた。
 金は、白倉さんに、銀は千宝寺さんに。
 二人が「ヨロイ」をまとう。で、僕は思わず、ギョッとなって、次にほっぺたが熱くなってしまった。だって、白倉さんの「ヨロイ」は……。
 白倉さんが、不敵なっていうか、ニヤッとして僕に言った。
「ボクのこの姿を見るの、本当なら、お金、いただくところなんだよ?」
 ……。
 彼女の「ヨロイ」、要所要所は、一応、ていうか、申し訳程度に隠れているけど……。いや、完全に隠れているかっていうと、微妙なところだけど、ほとんど、ハダカ、っていってもいい。
 こういう言い方すると、イヤらしいけど。
 確かに、お金、とるべきだと思う。
 白倉さんが、左手を開いて、前に差し出す。その掌の中で、虹色の光が二度三度閃くと、そこに、太刀が現れた。
 白倉さんが、太刀を鞘から抜き放ったときだった。
 鋭い「気」が、駆け抜ける。それを、まるで予期していたかのように、白倉さんが身をひねり、太刀を振り下ろした。金属音がして、何かが数メートル先の地面に転がった。
 起き上がった姿は、黒い鎧武者。
『なかなかやるな、小娘……』
 鎧武者・ムラマサが刀を構える。
「今回は、この前のようには、いかないよ?」
 白倉さんが、太刀を構え、不敵な笑みを浮かべる。
 ムラマサが、刀を構えながらも、一、二歩、後じさる。
 ……すごい、ムラマサが氣合い負けしてる!
 その時。
「白倉、ムラマサは引き受ける! お前は、ディザイアを!」
「新、って呼んでくれって、いつも言ってるだろ、千紗姉様?」
 そう言いながら、白倉さんは、ディザイアの方を見る。
「旋(セン)!」
 千宝寺さんの言葉で、すでに出現させていた八卦陣が回転する。
「巽(ソン)の門」
 停止した八卦盤の中央に、隷書体の「巽」の字が現れ、そこから、突風が吹き出した。そして、木刀のようなものが出現し、それが、降下して千宝寺さんの手に収まる。
 千宝寺さんがダッシュした。


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