一、二分は走り回っただろうか。 僕たちが「そこ」に到着すると、そこには。 二つの首を持った、巨大な鳥が、高さ十メートルぐらいのところで、宙に浮いていた。 裏町っていう感じのところだけど、無人じゃない。だから、逃げる人たちや、腰を抜かしている人たちが、悲鳴を上げていて、あたりは騒然となっている。 天夢ちゃんが呟いた。 「比翼(ひよく)の鳥……」 なんか、その声には、不思議な感情っていうか、感慨みたいなものがあったようだけど、僕の気のせいかもしれない。 それを見ながら、千宝寺さんが言った。 「どういう字を書くのかわからんが、『なおい しげ』と名乗る、妙な女売薬がいるそうだ。飲めば、想い人とともに、あの世で結ばれる、心中の薬。お互い、想い合いながらも、『家』の事情で結ばれない男女、特に女性の間で、評判らしい。その薬による心中は、すでに三十件に上るらしい」 そうか。大正時代って、いろんな文化が花開いて、自由な雰囲気があるように思ったけど、案外、いろんな束縛の強い時代だったのかも知れない。 咒符が光を放つのを、僕は確認した。ディザイアだ。でも。 あの、ディザイア、何かをしようとする様子はない。 なんていうか。 二人で一つの翼を持つことに、ただ、喜びを感じているように見える。 その時、勾玉が現れた。 金は、白倉さんに、銀は千宝寺さんに。 二人が「ヨロイ」をまとう。で、僕は思わず、ギョッとなって、次にほっぺたが熱くなってしまった。だって、白倉さんの「ヨロイ」は……。 白倉さんが、不敵なっていうか、ニヤッとして僕に言った。 「ボクのこの姿を見るの、本当なら、お金、いただくところなんだよ?」 ……。 彼女の「ヨロイ」、要所要所は、一応、ていうか、申し訳程度に隠れているけど……。いや、完全に隠れているかっていうと、微妙なところだけど、ほとんど、ハダカ、っていってもいい。 こういう言い方すると、イヤらしいけど。 確かに、お金、とるべきだと思う。 白倉さんが、左手を開いて、前に差し出す。その掌の中で、虹色の光が二度三度閃くと、そこに、太刀が現れた。 白倉さんが、太刀を鞘から抜き放ったときだった。 鋭い「気」が、駆け抜ける。それを、まるで予期していたかのように、白倉さんが身をひねり、太刀を振り下ろした。金属音がして、何かが数メートル先の地面に転がった。 起き上がった姿は、黒い鎧武者。 『なかなかやるな、小娘……』 鎧武者・ムラマサが刀を構える。 「今回は、この前のようには、いかないよ?」 白倉さんが、太刀を構え、不敵な笑みを浮かべる。 ムラマサが、刀を構えながらも、一、二歩、後じさる。 ……すごい、ムラマサが氣合い負けしてる! その時。 「白倉、ムラマサは引き受ける! お前は、ディザイアを!」 「新、って呼んでくれって、いつも言ってるだろ、千紗姉様?」 そう言いながら、白倉さんは、ディザイアの方を見る。 「旋(セン)!」 千宝寺さんの言葉で、すでに出現させていた八卦陣が回転する。 「巽(ソン)の門」 停止した八卦盤の中央に、隷書体の「巽」の字が現れ、そこから、突風が吹き出した。そして、木刀のようなものが出現し、それが、降下して千宝寺さんの手に収まる。 千宝寺さんがダッシュした。
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