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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第135回   陸の十七
「おかしな事件が、二つも?」
 僕が顕空を出たのが、七月二十七日木曜日の、午前一時半だった。
 冥空では、八月七日火曜日だ。
 昼下がりの、ここ、帝都文明亭にいるのは。
 僕、天夢ちゃん、千宝寺さん、そして、白倉さん。
「いやあ、やっとここへ来ることが出来るよ」
 と、制服姿(大正時代を考えたら、メチャメチャ違和感がある)の、白倉さんが言った。
「やっと……? どういう意味、それ?」
「ボクが、みんなを、冥空(ここ)に喚べる力を持つ、っていうのは、もしかして、誰かから、聞いたかな?」
「うん」
 貴織さん、だったかな?
「ああいうことを頻繁にやると、ボクにはペナルティーが課せられる。原理や理由まではわからないけれどね」
 そんな話も聞いた。
「その、ペナルティーって?」
 僕が尋ねると、白倉さんは千宝寺さんや天夢ちゃんを見て、言った。
「まあ、隠すようなことじゃないから、いいか。ああいうことをちょくちょくやっていると、ボクはしばらく冥空(ここ)に来られなくなる。大体、二サイクルほどは、経過しないと、来られない。大正十二年界の時間に換算すると、八月三十一日を、二回程度は、迎えないとならない」
「そうだったんだ……」
 と、天夢ちゃんが言った。彼女も知らなかったらしい。
「それはイヤだからね。ボクが知らないうちに、魔災の元が起きるなんて、テイボウのメンバーとしては、我慢できない。だから、なんとかできないか、いくつか、咒(しゅ)をかけたんだ」
 千宝寺さんが、眉をひそめる。
「咒? ……まさか、私も知ってたりしないよな……?」
 ? なんか、心当たりでもあるのかな?
「さすが、千紗姉様。まず、一つ。ボクが行けなくなっている間に、魔災が促進されないよう、それを抑える咒。まあ、この咒自体は、昔から行われているから、今さらボクがかけたところで、問題はない。むしろ、今さら、加えたところで、効果があるかどうか、疑わしい。で、もう一つ」
 と、ここで、一旦、白倉さんは水を飲む。
「白倉(はくら)神道の秘儀の一つに、『選日(せんじつ)を無視出来る』というものがある。専門的知識がないと、理解は難しいから、簡単に言うよ? なにかの呪術を行う際、『その呪術を行うべき日』が設定されている場合がある。でも、事情によっては、その日に呪術を行えないこともある。だから、その設定を無視して、緊急にでも、その呪術を行えるようにする。ただ、その呪術を行うと、『日時の差し替え』が起こる」
「日時の差し替え?」
 僕の疑問には、千宝寺さんが答えてくれた。
「例えば、一日が『風の力を持つ日』で、三日が『雨の力を持つ日』だったとする。これが差し替わると、一日が『雨の力を持つ日』になって、三日が『風の力を持つ日』になる。すると、本来、三日に雨が降るはずが、一日に雨が降ったりする。乱暴な言い方をすると、そういうことだ」
「そういうことが、あるんですか……」
 驚きだ。
 白倉さんが続けた。
「これが冥空に適用されると、ちょっと事情が変わるらしい。ボクとしては、例えば十五日が三十一日に差し替わって、三十一日が、次のサイクルの十五日に差し替われば、その十五日が、さらに次の三十一日と差し替われば、と思っていたんだ。そうすれば、実質的に、二サイクルが一サイクルに圧縮される。そう考えていたんだけれど、どうにも『日時』というものは動かないらしい。結果、本当に、日時が圧縮されてしまった」
 ……。
 この人が、原因だったのか、日時の異常な進度は……。
 千宝寺さんは、薄々感づいていたのか、「やっぱりそうだったか」と、頭を抱えている。
 天夢ちゃんが、苦笑交じりに言った。
「そ、それはそうと、なんですか、おかしな事件、て?」
 千宝寺さんが頷いて、言い始めた。
「『昨日』、こちらに来て、噂話に聞いた。一つは、夜間侵入窃盗犯。十件近くも起きているが、狙うのは、骨董屋ばかりで、しかも、何かを盗んだ形跡はないらしい」
「泥棒が欲しいと思う物が、なかった、つまり、ただの泥棒なんじゃないのかい?」
 白倉さんの言葉に、千宝寺さんが首を横に振る。
「全部を確認したわけじゃないが、何件かは高価な壺や、刀剣がありながら、手を着けたようではないそうだ」
 ……この間も、こんな会話したような気がする。
「あと、もう一件は……」
 千宝寺さんが何か言いかけたとき、あたりに、静電気に似た何かが満ちるのがわかった!
 真っ先に飛び出したのは、白倉さんだ。


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