そう思っていたら、富部純佳(とんべ すみか)が、帰って来た。彼女には、矢南の調査をさせていたのだ。 矢南は、七年前、県内の他市にある「I−イノベイティブ社」の支社から、本社に異動してきた。だから、その前について、照会をかけたが、特におかしなところはなし。そこで、さらにさかのぼり、大学時代まで調べていた。純佳には、遠方の県にある、大学所在地まで、調べに行かせていたのだ。 「面白いことがわかりましたよ、先輩」 と、純佳が笑顔で言う。 「あ、これ、お土産です」 キーホルダーだった。 「修学旅行か」 本当に、なんで、こんな妙なやつが刑事課に配属されたのか。七不思議、確定だ。 呆れて突っ込んでいると、純佳が手帳を開いた。 「矢南が在学中、その近隣でオレオレ詐欺、今でいう特殊詐欺が、発生しています。その被害者が全員、ある食材宅配業者を利用していて、当時、所轄署による、業者の聴取が行われてますね。で、そこのアルバイトに、矢南徹明がいて、当時、矢南も、聴取されてます」 「……クロだったのか?」 「いえ。何も出てないらしく、結局、型どおりの聴取で終わってますね」 「佐溝と矢南は、同じ大学、しかも同じサークルだ。もし、佐溝がその時に証拠を掴んでいたとしたら」 「充分、矢南を脅す材料になりますね」 「ああ」 明らかにされたら、刑事罰は受けないだろうが、社会的制裁というものはある。今の時代、一社員の不祥事で、企業のイメージが傾くことは、避けねばならない。例えば、どこかの掲示板にでも書き込まれたら、大ダメージだ。 だからこそ、矢南は佐溝に対して、金を工面し続けていた。 「あと、もう一つ。これは事件とは関係ないんですが」 と、純佳は報告する。それは、大学時代の一時期、例のオレオレ詐欺で矢南が事情聴取されたあとのことらしいが、佐溝と矢南は、入学して同じサークルに加入してきた、ある女子学生を巡る、恋のライバルのような立場にいたらしい。その写真を入手できたので、コピーを取ったという。 「結局、矢南は身を引いたらしいんですが、佐溝も、ものにできなかったみたいです。でも、これで、矢南が佐溝を怨む理由、ハッキリしましたよね? 矢南が佐溝を殺したんじゃないんですか?」 「それは、ない」 サークルで撮った、集合写真。佐溝と矢南が執心していたという女子学生は、どこか、小金井奈帆に似ているような気がしたが、確かに事件に関係なさそうだ。
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