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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第132回   陸の十四
「十時、海水浴場 SIL」と書かれた、あのメモ。「SIL」については、今は、おおよそ推測が立っている。「son in low」……婿養子のことではないか? 佐溝がいた部署は資金管理一課。そこで婿養子というと、石毛晴幸しかいない。小金井奈帆が、矢南殺しに関わっているのでは、という推測になった時点で、そこから、佐溝殺しにも接点があるのでは、と、やや強引なスジ読みがされた。
 いわく。
 詳しい事情はわからないが、石毛晴幸は、佐溝充政を殺害してしまった。それを、これも何らかの事情で、矢南徹明に知られてしまった。矢南による脅迫が始まり、耐えかねた奈帆が、矢南が殺害されるように仕向けた。
 強引すぎる読みではあったが、可能性があるなら、調べたい。そこで晴幸について調べてみたが、彼は事件当夜、帝星建設本社で、午後九時頃から午後十時三十分頃まで、仕事をしていたらしい。時間外勤務の帳簿が残っていて、記録があった。何か調べ物があったらしく、頻繁に警備室に鍵を借りだしに来ており、それは、複数の証言がある。一部、曖昧なところはあったが、ある種、異常な事件があった日でもあり、また、何度も何度も警備室に顔を見せていたので、警備員たちの記憶に残っていた。
 本社ビルから海水浴場までは、大体二、三十分。遺体発見の第一報は、午後十一時。時間的に不可能ではないが、犯行現場は、おそらく九柳公園。本社ビル、九柳公園、海水浴場の地理的・時間的なことを考えると、辻褄が合わない。本人に確認したくとも、晴幸は、いまだ意識不明だ。
 それでも、真相にたどり着く手がかりはある。
「共犯、か……」
 今回、明らかになった事実で、幾分、進展した。つまり、共犯者がいて、晴幸の代わりに海水浴場で佐溝を待ち伏せた者がいた。その者は、何らかの理由で九柳公園まで佐溝を連れて行き、そこで殺害。
 そもそも、佐溝を殺害したのは、晴幸ではなかったのだ。そして、海水浴場へ、佐溝の遺体を運んだ。しかし、佐溝が脅迫の物証を、九柳公園に捨てたと考えた共犯者は、公園へ行き、それを回収。
 では、その物証とは?
「スマホ、だろうな……」
 佐溝のスマホは、まだ、見つかっていない。そして。
「おそらく、その物証を回収した共犯者は、公園に別の車が停まっているのを見て、自分の行動が見られた、と、判断した。その車は、矢南徹明の車だった。そこで共犯者は、矢南を始末することを考えた、か……? 飛躍しすぎか、それとも」
 だが、そうなると、その共犯者は、一人しかいない。
「運転者は、女性のようだった……」
 しかし、今の推理だけでは、小金井奈帆を引っ張るには弱い。やはり、あの公園で見つけた「あの事実」の意味を説き明かさないと。


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