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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第130回   陸の十二
 七月二十六日、水曜日、午前十時。
 国見は、青清木の公園に来ていた。
 あれから、聞き込みなどをやったものの、なにせ、古い記憶だ。ここで何かがあったならともかく、なんでもない日常の、平凡な日の、さらに深夜となると、誰の記憶にも残っていない。
 とりあえず、佐溝充政(さこう みつまさ)の財布を拾った男子大学生が、思い出したことがある。
 男子大学生は、その財布を拾った日は、女友達とドライブをしていたそうだ。その時の車は、あるサイトで掲示していた、レンタルカー。といっても、業者のものではなく、一般人のもの。それなりに値は張ったが、高級外車であり、そのグレードの車を、業者からレンタルするよりは、安価だった。
 その車の持ち主の名前は、矢南徹明(やなみ てつあき)。水曜日の夜から、土曜日の夜までが、貸出期間だった。
 そして、車を返す前日の夜、女友達を乗せて青清木(せいせいぼく)の公園へ立ち寄ったという。その時、一台の車が既に停まっていたが、しばらくして、急発進するように、走り去ったらしい。目の前を走って行ったが、運転者の顔までは、わからないという。
 かろうじて「女の人っぽかった」というだけだ。
 そのあとで、南口の自動販売機で飲み物を買い、女友達に渡した。自身はトイレへ行きたくなり、公園東側の遊歩道の、駐車場側にある公衆トイレに行こうとして、クズかごの回りにゴミが散乱しているのを見かけ……。
「その時に、交番に届け出てればなあ……」
 と、矢南は呟いた。もし、その時に届け出ていれば、公園にも目を向けることになり、何かが見つかったはずなのだ。
 この公園に来てみても、何も手がかりがない。もしや血痕でも残っていないかと、注意してみたが、それらしいものは見つからず。何か落とし物でもないかと、行政の公園を管理する部署に聞いてみたが、そんなものはなく、さらにこの公園では、三ヶ月に一度、町会やボランティアが中心となった大規模な清掃作業が行われ、特に年末には、専門業者が入って、徹底的なクリーニング作業が行われるそうだ。
 今日も来てみたが、何が見つかることか。
 そう思いながら、駐車場から遊歩道に入ってみる。
 すると、そこで写真を撮っている、六十代ぐらいの、一人の男性がいた。
 なんとなく声をかけてみると、男性は、ここで月に二、三度、風景写真を撮っているという。
「私、若い頃は写真を撮ることを、生業(なりわい)にしてましてね。どんな場所でも、一日として、同じ風景はないんです。そのことに気づいたら、気に入った場所を定期的に撮影する習慣が身についてしまって」
 と、苦笑い。
 もしや、と思い、国見は聞いてみた。
「あの。去年の十一月四日の翌日とか、翌々日とか、ここで、撮影してませんか?」
「……去年の十一月四日ですか……。その頃は……。ああ、そうそう、私、十一月一日から、入院しちゃいましてね、二ヶ月ほど」
「そうですか……」
 二ヶ月も間が空いたのでは、望み薄だ。
「でも、その前、十月二十八日に撮った物ならありますよ。ご覧になりますか?」
 事件前のものを見ても意味はないが、話の流れもあり、また、無下に断るのも悪い。そう思い、国見は写真を受け取った。
 通りの、駐車場から、北方向へ向けて、一直線に伸びる遊歩道を撮影した一枚だ。特に何があるわけでも……。
「……ん?」
 何か、違和感がある。この写真と、今、目にしている光景と、どこか、何かが違うような気がする。じっくりチェックしていて、ふと、「あること」に気がついた。
「すみません、この写真のデータ、今、持っていらっしゃいますか?」
 何か、ザワつくものを感じ、国見は言った。
「え? ええ」
 と、男性は、バッグから、ケースを出し、該当するカードを出した。そして、カメラにセットし、その写真を表示させ、国見に手渡す。
 そのカメラを手に、国見は、「そこ」へ行く。カメラの機能で、ある程度、画面を拡大できるが、その程度でも充分だった。
 この違和感が、何を意味するか、気になる。無駄かも知れないが。
 国見は携帯を出し、署に電話をかけた。


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