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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第128回   陸の十
 七月二十五日の夜、八時。緊急会議が開かれた。時間が巻戻ったからだ。
 で、歪みの蓄積レベルはそれほどでもないらしいけど、何か、脅威が迫っていることは間違いないらしい。「天水訟」の二爻とかいうものが出たのだそうだ。
 で、会議が終了間近になった時。
 僕は天夢ちゃんに小声で言った。
「一応、話すだけは話してみれば?」
「でも……」
 天夢ちゃんは、ちょっとためらっている。天夢ちゃんが顔を上げて誰かを見る。その視線の先にいるのは、高谷さん。高谷さんが頷いた。それを見て、天夢ちゃんが再び、僕を見る。僕も頷いた。
 それで決意したのか、天夢ちゃんが頷いて、挙手した。
「あのぅ……」
 みんなが、何事か、と、天夢ちゃんを見る。それにちょっと気後れしたようだけど、天夢ちゃんは、自分に向かって小さく気合いを入れて言った。
「この間、……土曜日なんですけど。あたし、高谷さんに、英語の勉強を見てもらってたんです。で、その時、『生きる』っていう意味の英語の『live』を、逆から読むと『邪悪』っていう意味の『evil』になるって聞いて、それで、『悪い子』は『evil boy』じゃなくて『rascal』で、その反対は『good boy』で……」
「神室、要点だけ言ってもらえないか?」
 困ったような表情で、千宝寺さんが突っ込むと、天夢ちゃんが「すみません」とちょっとだけ縮こまった。でも、一回深呼吸してから言った。
「『生きる』の『live』を逆にして、『邪悪』の『evil』になるんなら、『良い』っていう意味の『good』をひっくり返した『doog』は、『悪い』っていう意味になるのかな、って、意味もなく考えて、『doog』って『dog』に似てるな、って思って、その時、気がついたんです。ケルベロス、って、地獄の番犬ですよね? つまり、『犬』です。犬は英語で『dog』。一応、『doog』っていう単語を探してみましたけど、ありません。で、ケルベロスは三本首。だから、これをd、o、gの順に、1、2、3て、番号を振ります」
 ここから先は、文字にした方がいいと思ったのか、天夢ちゃんは副頭の後ろにある、ホワイトボードのところに行った。
「dが1、oが2、gが3。それで、オルトロスは二本首です。三が二になったってことは、3から2に減った、って感じがしたんです。そしたら、もしかすると、次は一本首になるのかな、って。すると、この順番に従うと」
 そのあとを、ホワイトボードを見ながら、浅黄さんが言った。
「1、2、3でd、o、gなら、3、2、1はg、o、d……。god……。GOD(ゴッド)……!」
 紫雲英ちゃんが息を呑んで言った。
「まさか、次は神になるって……!?」
 貴織さんも、まさか、って顔をしてる。
「神を気取ってる……。それか、魔災は、神の意志、裁き……」
 その言葉が終わると同時に、誰かが、荒々しくテーブルを叩いたらしい。爆発にも似た、破裂音が響いた。
 驚いてそっちを見ると、千宝寺さんが、両手をついて、立ち上がっている。
「……ふざけるな……。神の意志で、魔災だ? 神が世界を滅ぼすのか? そんなふざけた話が、あってたまるかッ!」
 その剣幕に驚いたけど、それでも、貴織さんは言った。
「ちょ、ちょっと、千紗? なに、熱くなってんの……?」
 そのあとを、副頭が言った。
「落ち着いてください、千宝寺くん。これは、単なる『言葉遊び』です」
 天夢ちゃんが気がついたことに対して、「言葉遊び」は、あんまりだと思ったけど、この場はこう言うのが、いいと、僕も思った。
 大きく息を吐いて、千宝寺さんが頭を下げる。
「すみません」
 そして、席に座る。


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