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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第123回   陸の五
 貴織さんがその女性に近づき、何か、二言三言、言葉を交わす。僕たちが、黙ってみてたからかどうか、それはわからないけど、その女性を僕たちに紹介しないといけない、って思ったらしい。
「ああ、この人、あたしが前、勤めてた派遣会社の先パイで、定岡菜緒恵(さだおか なおえ)さん」
「どうも、『鈴田』菜緒恵(すずた なおえ)です」
 と、女性が「すずた」を強調する。
「え? 先パイ、もしかして、ご結婚……?」
 と、貴織さんが驚く。
「フフン。驚け、私、結婚してるのよ! ……でもねえ」
 と、鈴田さんが、ちょっとトーンダウンした。
「『お互い、束縛しないでいようね』って、言ってたんだけど、それって要するに、旦那が外で女作る口実だったみたいなの。結婚して、早四年。今じゃ、立派な仮面夫婦」
 うわあ、生々しい。浅黄さんも、ちょっとげんなりした表情になってる。
 貴織さんは何だか同意できるみたいで、いろいろお喋りしてる。多分、「前、勤めてた」時代(ころ)の話も。
 僕の視線に気づいたのか、貴織さんが言った。
「あたし、今のお仕事する前、短大卒業してすぐ、なんだけど、人材派遣のお仕事、やってたの。ほぼ、一ヶ月毎に、いろんな会社の、……大体、事務の仕事が多かったかなあ。時々、荷物の梱包とかもあったわ。『トラブル』があって、すぐに辞めちゃったけどね」
 その言葉に、僕は、なんとなく気づいた。
 貴織さんが、大正十二年界で「どこの仕事場で仕事してるか、認識できない」理由について。
「そういえば、きおちゃん、今、フォーチュナーハウスで、占いのお仕事、してるんだっけ。タウン誌とか、見てるよ? ……そうだなあ、今度、見てもらおうかしら、私と旦那のこと」
「お待ちしてます。先パイは、今は、専業主婦ですか?」
 貴織さんの言葉に、鈴田さんは、「チッチッチッチッ」と、右手の指を揺らす。
「実はさあ、きおちゃんが辞めた直後、……七年前に、私、ある人……ていうか、旦那のお父様に認められて、チョー有名どころに正式採用されたの!」
「すごいじゃないですか! で、どこですか?」
 貴織さんが、目を輝かせて言うと、鈴田さんが胸を反らして言った。
「聞いて、私にひれ伏しなさい! なんと、上石津市が日本に誇る、大手ゼネコン、帝星建設よ!」
「…………え?」
 僕、貴織さん、浅黄さんの三人の声が、ハモった。
「……でもさあ、殺人事件は起こるし、横領事件は起こるし、で、今、中はガタガタなの。七月の、今の時点で、早くも『リストラ』対象者の名簿が回って来てるし。幸い、私の名前はなかったけど、ヤバいかもねえ……。って、何、三人とも? 顔、見合わせちゃったりしてさ?」


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