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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第120回   陸の二
 とりあえず、近くのハンバーガーショップへ行こう。僕は肉料理がダメだけど、天夢ちゃんはハンバーガーとかが、いいんじゃないかな?
「ねえ、バスに乗るけど、バーガーショップがあるから、そこへ行こうか? それか、市電に乗るけど、ファミレスとか?」
「あの。あたし、牛とかのお肉、駄目なんです……」
 そう言って、ちょっと上目遣いになる。
「え? 天夢ちゃんも?」
「あたしも、ってことは、やっぱり、救世さんも食べられないんですね、お肉料理」
 少し、天夢ちゃんの声に弾みがついた。まるで「同類を見つけた」みたいなノリだ。ひょっとしたら、「肉料理が食べられない」っていうことで、珍獣を見るような目で見られたり、イヤな思いとかしたのかな、僕みたいに?
 でも、今「やっぱり僕も肉が食べられないのを、うすうす、感づいていた」みたいな言い方したよな、彼女?
 天夢ちゃんが笑顔を浮かべる。
「あたしの実家、神社だって言いましたよね? うちって、いろいろと『修祓(しゅばつ)』……お祓いとか、ご祈願とか、結構、頻繁に受け付けてるんです。そういうときって、精進潔斎しないとならなくて、その関係上、いつの間にか、常日頃から精進料理が食卓に並ぶようになってて。それに、あたしの家、先祖伝来の剣技……剣の技を伝えてるんです」
「へえ、剣か」
 央心流(おうしんりゅう)拳道を伝えてる、僕の家みたいだな。ま、帝浄連に関係した家だし、珍しいことでもないのかな?
 天夢ちゃんは頷いて、言った。
「うちでは『神威天幻(かむいてんげん)流』って名付けてます。一刀正傳無刀(いっとうしょうでんむとう)流、天然理心(てんねんりしん)流をあわせたものに、しばらく前に央心流武術を組み込んだんだそうです」
 そして、笑顔になる。
「え? それって?」
「はい。あたしのおじいさんが、救世さんのおじいさまから技やエッセンスを教わったんだそうです」
 僕の爺ちゃんも、天夢ちゃんのおじいさんも、元・帝浄連メンバーだ。
「そうか。……なるほど。央心流じゃあ、肉料理は食べないからなあ」
 うちで伝えてる央心流拳道は、実はそんなに古いものじゃない。昭和初期に、ひい爺ちゃんが天心古流とか骨法とか、いろんな古武術や、大陸の拳法を組み合わせたものに、秘密の体術を組み込んで編み出したっていう。
 この秘密の体術が何であったのか、実はわからない。ひい爺ちゃん、それを伝える前に死んじゃったんだそうだ。だけど、その体術は禅にも通じるとかいわれてて、その体術では肉を食べないらしい。
「なんで、体術で、お肉、食べないんですかね?」
 天夢ちゃんが、天丼を前にして言った。結局、僕たちは、僕が普段利用している、平田古書近くの定食屋に来た。僕は、玉子丼、天夢ちゃんは天丼。これは体験者でないと理解してもらえないけど、小さい頃から、とか、長いこと牛肉なんかの料理を食べないとか、そういうことをしていると、いつの間にか体が肉料理を受け付けなくなることが多い。僕も、そうだ。
 ちなみに、ここの料理、もちろん、僕のおごり。
「聞いた話だけど」
 と、僕は師範代……叔父さんから聞いた話をした。
「牛肉とかは、筋肉とか体を作る元にはなるけど、すぐにエネルギーになるわけじゃない。でも、米とか炭水化物や糖類は、すぐにエネルギーになる。その体術は実戦重視で、『武居即応(ぶいそくおう)』が、モットーだったらしい」
「ぶいそくおう?」
「『戦う』のと、そこに『居る』のと、どんな状況にもすぐに対応できるように、ってこと。央心流独特の、言葉なんだって。そのためには、体を動かすエネルギーを、すぐに引き出せる状態になっていないとならないってことなんだって。わけわからないけど」
 こんな栄養学的な考え方は、多分、近代のことだ。だから、多分、爺ちゃん辺りが後付けで、こんなことを言ってるんじゃないかって、僕は思ってる。
 しばらくは、僕たちは食事を摂りながら、世間話をした。だいたいは、天夢ちゃんが学校のこととかを話している方が多かったけど。
 で、食事を終えて、定食屋を出ると、僕は、辺りの人がいないのを確認して言った。


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