ガラスが割れるような音が響いて、風が流れ、何かが走ってきた。そして、地を蹴る音がし、裂帛の気合いとともに、その何かが、地面に着地した。 風の奔流が、刃となり、紫雲英と邪妄との間を、薙いだ。 紫雲英を縛めていた力がなくなり、その場にへたり込むと、誰かが紫雲英を抱き起こす。 「大丈夫、紫雲英ちゃん!?」 「……心さん?」 それは、紫雲英が締め出してしまった、救世心だった。 「どうして、ここに……?」 ここは、結界だ。外からは、感知できないはず。 「なんか、変な『力場』みたいなものがあって、その辺りを人が無意識に避けて歩いているように思えたから、そこに『何か』があるんだろうなあ、って思って。そしたら、紫雲英ちゃんの悲鳴が聞こえたんで、どうにか入れないかって思って、『氣』を込めて、そこを打ってたら、いきなり、空間が砕けて……」 「そうッスか……」 戦力外と思っていたが、それなりに優れた感覚の持ち主のようだ。 「立てる?」 心の言葉に頷き、紫雲英は立ち上がる。心が紫雲英の銃を見て、言った。 「僕が時間稼ぎをするから、その間に」 「……え?」 「紫雲英ちゃんのその銃、なんか、咒力のチャージに時間がかかるように感じるんだ。……違うかな?」 驚いた。パッと見ただけで、特性……いや、現時点での弱点さえ、見抜くとは。 心は、特にツールを持たず、徒手空拳のようだ。言い換えたら、肌で、様々なモノを感じ取ることが出来る、ということか。 彼に対する認識を、変えねばならないかも知れない。 「お願いするッス」 紫雲英の言葉に頷くと、心は、邪妄めがけて駆けて行った。 結界が壊れ、人々がこの異常事態に悲鳴を上げているのが聞こえる。また結界を作っている時間はない。 一撃で仕留める。 ムラマサが来る前に。 紫雲英は、咒を唱える。 「晃朗在太元、霊宝符命、太上老君勅命急急如律令。破邪(はじゃ)符!」 邪悪なモノ全般に効験のある符だ。符形そのものは、複雑ではないが、簡単な形ではない。ある種の図形を含むため、生成に時間がかかる。 意識を集中し、邪妄を睨む。空間に符のパーツが現れる。咒字だけではなく、図もなぞる必要があるため、部分的に咒字ではなく、直線や曲線もある。 気合いとともに、引き金を引くと、白縫から吐き出された弾丸は、銀光をまとい、咒字を拾い、直線をなぞり、曲線をなぞっていく。最後に、三元を意味する三つの点を打ち、符が完成した。 心が弾丸が来る気配を察知したのか、サイドステップで跳びのく。直後、咒弾が禍津邪妄の胴体にめり込む。 数瞬後、邪妄の体の中から光が溢れ、直径五、六メートルほどの、虹色の塊となり、禍津邪妄を消し去った。 とりあえず、退治できたようだ。
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