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作品名:帝都、貫く、浄魔の拳 作者:ジン 竜珠

第116回   伍の十五
 邪妄の体から、風を切る音がして、舌が飛んできた。そして、紫雲英が体勢を整える前に、その上半身を巻き取る。
 自分の感覚としては、しばらくは、禍津邪妄は動けないはずだった。だが、舌が再生し、すぐにこうして攻撃に転じてきた。
 先ほどの咒弾が、ほとんど効いていないということだ。邪を挫く、ということを優先したが、邪の動きを封じる方にすればよかった。完全に読み違いだ。
 腕の自由が利かない。そう思っていたら、別の舌が現れ、今度は紫雲英の両足首に巻き付く。
 文字通り、手足を封じられてしまった。
 だが、まだ、顔……つまり、口は封じられていない。
 紫雲英は、邪の動きを封じる「禁鬼符」を生成しようと咒を唱える。
「晃朗在太元……」
 そこまで言ったところで、別の舌が現れ、紫雲英の顔を舐めた。
 まるで、生温かく、水分を含んだギョウザの皮が、顔全体を撫でていくような感覚が襲う。その感触自体は、それほど異様なものではなかったが、顔全体を舐められるということは、異常な体験だった。体が硬直する。さらに、別の舌が現れ、紫雲英の顔全体を舐めた。
 今度は、正真正銘、有機生命体の「舌」そのものの感触だ。おまけに、生理的に受け付けないニオイがする。この間のディザイアのようなニオイではないが、それでも、異臭だといっていい。例えるなら、煮詰めすぎた乳製品に近いだろうか?
 気が遠くなりそうになる。だが、ここで気を失えば、何をされるかわからない。どうにか上半身の縛めだけでも!
 そう思ったら、今度は、舌が太ももを舐め回した。
 自分でも理解不能な悲鳴を上げる。パニックになりそうだ。
 今度は、舌が内股をねぶり回す。その次に舌がどこへ来るか、想像するだけで怖気が立った。このまま、舌が上へ上がってきたら……
 半ばパニックになって、紫雲英は悲鳴を上げ続けた。そして、その舌がそのまま上へ上がってきたとき!


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